ハンチバック

satyrshome
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公開:2024/9/1

ハンチバック読んだ。おもしろかった。ネタバレつきの感想をどこに投げたものか迷ったので、ここに記す。

あらすじは略

「健常者の女」ならばデフォルトで用意されてる選択肢のうち、かろうじて自分に選べるものに手を伸ばした女性の話であった。

欲しいのは受精卵なのになんで口淫を申し出たんだろうと思ったんだけど、中絶という選択肢に手が届きそうになったんならせっかくだからイラマチオや飲精も実績解除したい!ということだったんだろうか。滅多に無い機会だし。

口に含んですぐ「ムムッこれは…噂に聞きし包茎手術の痕!」となり舌でじっくり観察するのはちょっと笑った。修学旅行で金閣寺に来て「写真と同じだ〜!」って思うような感じ?違うか。

それはともかく

ラストが分かりそうで分からんラインを攻めており、まんまと考察に向かってしまった。

田中さんが釈華をあやめてしまい、田中さんの妹はそれが印象に残って釈華の意志を継ぐ、みたいな話になっているのだけれど、田中さんは小切手を受け取らなかったはずでは?そして早稲田の女子大生とか商社マンとかはコタツ記事の架空の登場人物だったのでは?とそれまでの話とリンクするようでしない。

実は釈華は存在せず全てはワセジョのSちゃんによる創作だったのかと思ったが、本筋がすべて「健常者の女」による妄想というのは設定としても無理があるんじゃなかろうか、と思い直した。

最終的に私が落ち着いたのは、(ラストのホス狂大学生のくだりは)希望を絶たれた釈華の反省会、というものであった。

田中さんは金を受け取らず精子も渡さず去った。そりゃ普通の人間ならそうだろう。田中さんが極悪人でいてくれたらよかったのに。イラマチオまではやったんだからもうちょい根性出せよ田中。そんな釈華の思いが生み出した世界が、

「井沢釈華は親の遺産で悠々自適に暮らす重度身体障碍者。下世話なコタツ記事のライターでツイッターで汚いことを書き散らしてもいる。ある日井沢釈華はヘルパーの男性によって殺されてしまう。ヘルパーの男性には妹=ワセジョのSちゃんがいた。Sちゃんはひょんなことから井沢釈華の遺したツイッターや何やを知り、その意思を継ぐ。」

というものだったのではないかと。

手持ちの材料だけでどうにか作ったハッピーエンド。「母が学歴コンプあったおかげで学資保険だけは無事だった」とかやたらディテールに凝りがあるのがまた笑える。しかしSちゃんが担によって沈められた嬢というのが悲しいな。妄想でくらい高級娼婦になれよ。なっていいんだよ。

でもそういう人生に希望が無さすぎて妄想の世界の中でさえも悲しい自分にしかなれない人、私は好きですね。

釈華はわりと信頼できない語り手なので、もしかすると田中さんと女性用風俗の話をするあたりから全部妄想なのかもしれない。

はたまた、釈華もSちゃんも同じ世界に実在し、同時に互いの妄想の中に存在し、釈華の死によって奇跡が起こってふたりの魂が通じ合ったのかもしれない。

と、いい感じの落とし所が複数思いつかれ、なかなか充実した読書体験となりました。

読書家のマチズモに関してはほんとそのとおり過ぎてごめんなさいという気持ち