「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」。
『伊勢物語』の第60段に出てくる和歌だそうだ。
プルースト効果を代表に、香りが人を思い起こさせるきっかけとなることは、広く知られている。
嬉しい記憶を呼び起こしてくれるならともかく、香りは時として残酷だ。
あなたは、映画を見に行くときに香水は付けるだろうか?
私は、自分の中の映画のイメージに合わせて、(まだ数少ない)香水ボトルから、映画のイメージの香りを選ぶ。
ふとした時、映画の登場人物と合わせて匂いのイメージが浮かんでくることがある。映画館のポップコーンの匂いでも、その日見た花の香りでもない。
「匂い」
思いを巡らせていくうちに気づいた。「その日付けた香水の香りだ」。
大きな驚きと共に、嬉しくもなった。自分でもどの香水をつけたか忘れていたのに、登場人物と香りが結びついているのだから。
だって、その香水の香りを感じるたびに、あの登場人物たちとも、共にあれるのだから。