こんばんは。今日の昼間、「ヒプノシスマイク Division Rap Battle -Rule the Stage- Renegades of Female」を観劇してきました。わたしにとっては劇場で見る初めてのヒプステ(ヒプマイの舞台版のことですね)で、しかもシリーズにとっても初のオールフィメールキャスト、初の中王区をモチーフにしたステージだったということもあり、もう興奮して正直どこまできちんとした文章に落とし込めるか疑問ではあるのですが、むしろ興奮冷めやらぬうちに、今日の感想を書いておきたいと思います。
(ネタバレ注意です!)
と言っても、何から書き始めたらよいのか……とにかく、すごく良い舞台でした。心配こそしていなかったものの、主要キャラクターはもちろん、アンサンブル(CHU-OH DANCE BATTLE 'C.D.B’)の皆さんも含めてキャストさんの演技も歌もダンスも素晴らしかったし、演出も脚本もとてもよかったと思います。お客さんたちも、一見ですがさまざまなジェンダーや年齢層の方がいて、とても盛り上がっていました。昨日もですが、最後はスタンディングオベーションで、ああ、来られてよかった!もう一度見たい!と心から思える舞台でした。
正直、もうそれ以上書くこともないというか……というのは、わたしが個人的に「ヒプマイよ、こうであってくれ!」と思っていたことの80%くらいが今回達成されていて、同行した友人の言葉を借りれば成仏したみたいな感覚なのです。うわ〜ヒプマイ、というかヒプステ。すごい。かなりできるじゃん!!(上から目線でごめんなさい、一ファンの主観としてお楽しみください……)
というのは、わたしはヒプマイが大好きなのですが、ヒプマイの描く「女性たち/中王区」とか、「フェミニズム」にかなり危機感を持っていたからなのです。このことは、むかしこちらの感想文のような評論にも書きました。当時読んでくださった方もいらっしゃるかもしれません。
この記事で書いた危機感というのは、大きく言えば以下のような点です。
①中王区、ひいては「ヒプノシスマイク」の世界観が、男女二元論的(バイナリー)であること。よって、トランス女性や、シス女性(生まれた時割り当てられた性別と、ジェンダー自認が一致している女性)以外のノンバイナリー、Xジェンダー、ジェンダーフルイドなどの存在が透明化されていること。
②中王区に居住している女性たち、ないしは「言の葉党」党員たちの描かれ方が画一的で、中王区以外に居住している女性たちや、言の葉党に賛同していない女性キャラクターなどが描かれていないこと。
ですが、今回のヒプステ 'Renegades of Female' では、そのタイトル(「女性の叛逆者たち」)が示す通り、②の点へのわたしの心配を完全に払拭していました。ツクヨミと一愛は、かれらは女性というジェンダー自認だと思いますが、中王区、ないし言の葉党に真っ向から反旗を翻します(これこれ、これが見たかったんだよ〜!!!!!!)。女性と言っても一枚岩じゃない。言の葉党の独裁的なやり方に不満を持つ女性も当然いるはず。同じように、フェミニズムだってさまざまな方法や考え方があって、お互いに批判したりしながら、全ての形の「ジェンダーによる不平等をなくす」ために進んでいけば(時には、後退したりすれば)いいのだと、わたしは思っています。とにかくツクヨミと一愛というキャラクターを誕生させてくれてよかった。
それだけではありません。今回の主役は碧棺合歓ちゃんなのですが(と、わたしが勝手に言っているだけなのですが、わたしはヒプマイの公式も通じて彼女が主役だと思っています)、このストーリーを通じて、彼女が言の葉党の「正義」に疑問を持ち、彼女なりに「自分が実現させたい正義とはなんなのか」と考えるさまは、中王区の華麗で痺れるほど格好いいラップやパフォーマンスに魅了されてきたファンのわたしたちが辿る道そのものなのだと思います。このガチガチの男性中心社会である現実の令和日本において、中王区や東方天乙統女たちのラップには確かに、女性たちを勇気づけ、エンパワメントする役割があります。とても魅力的です。でも次第に、または同時に、中王区の理念に疑問を持つ(ようになった)ファンも少なからずいるでしょう。実際に、「武器を棄てたと言っても、人間の交感神経に作用するヒプノシスマイクって普通に兵器では?」「ディビジョンラップバトルってそもそもする必要ある?」と感じてきたファンも多いと思いますし、だからこそそれらの疑問を、ヒプステはオリジナルキャラクター達に代弁させてきたのでした。わたしはヒプステ初心者なのですが、亀田真二郎さんの脚本は今回も見事に、ファンの内心とともに歩んでくれたと思っています。終盤の合歓の「男も女も関係ない」という歌詞はまさに、「ヒプステ、ここまできたか……!」と思わせてくれるものでした。
ですが、少しだけもやもやもあります。合歓に「男も女も関係ない」と歌わせたわりに、やはり依然としてH歴社会は男女二元論的なものとして書かれています。具体的に言えば、シス女性で健常者しか出てこないのです。もちろん、これはヒプステ個別の問題ではなく、わたしたちの生きる社会そのものの問題でもあるのですが……。先程の2年前の文章に、わたしはこう書きました。
「これに倣うなら、中王区の言うフェミニズムに対して、このような問いを立てることが可能なはずだ。言の葉党に入党し、中王区に居住できるのは、シス女性(生まれた時に割り当てられた性別と自認する性別が同じである女性)だけなのか?戸籍上(戸籍というものがH歴にまだあればだが)の女性だけなのか?国籍が外国であったり、一定の所得がなかったり、障害があったり、『ヒプノシスマイク』で流暢に言葉を操ることができない女性はどうなのか?中王区のフェミニズム、ひいてはヒプマイで描かれるバイナリーな男女の世界には、現時点ではこれらの問いが設定されていない。」
今回のヒプステがわたしの願い80%を成仏させてくれたからこそ、もっとと願ってしまうのはそうなのですが、願わくば①の点もクリアしてくれたらもう思い残すことはなかったし、亀田さんの脚本ならこれもできちゃうのではないかと……。翻って言えば、さらに高望みをしてしまうほど、今回のヒプステは素晴らしかったのです。
2.5次元のコンテンツで、オールフィメールキャストというのは珍しいと思いますし、この'Renegades of Female'は偉業だと思います。でもだからこそ、まだまだいける!とも思ったのでした。たとえば脚本や演出なども女性がやるバージョンも、本当に観てみたいと思います。
でも本当に、今回観られてよかったです。思想的には批判したい点もあるけど、乙統女さまも無花果様もみんな好きになりました(仄々さんもすごく魅力的だったけど怖かった)。
みなさん、機会があればぜひ!ヒプステ公式さん、円盤は買いますが、公演中も配信してください!!!!