ずいぶん前に観たある映画の邦題に、「ポケットいっぱいの涙」というものがあった。僕はその表現がとても好きで、ずっと心の片隅に残っている。
やり場の無い感情というものは、最初の段階では、まだかたちが無い。目に見えるものではない。その感情が、その後どのような行動や言動となって表に出てくるのかは、人それぞれだ。しかし、その様なかたちとして表には出せず、内に留める人もいる。行き場の無い、そんな彷徨う感情の辿り着く先が、他人からは見えない、誰にも気が付かれない自分のポケットの中だとしたら、それは絶望的だ。絶望的だが、この邦題を付けた人は、もしかしたら他人の感情の動向を敏感に感じ取ったり、想像したりすることができる人なのかもしれない。他人のポケットに溜まった涙が見える人なのかもしれない。そんな大人が、もっともっと増えたら良いのになと思う。
そういえばこの前、暑い南の島で、久しぶりに笑い過ぎて涙を流した。昔はそんなふうに涙を流すことが、今よりもっと沢山あった。
皿を洗いながら思い出した。