物語に、幕を下ろしてきた。さよならと共に、涙が零れた。
その事実だけが、私が満たされているという実感を与えてくれた。
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おしまいの前に、行った下準備。
なにせ私はコミュニケーションが苦手で、おしまいを共に見届けられる仲間はいなかった。この物語に誘ってくれた人も、色々事情があって厳しかった。
ひとりぼっちの最終決戦。でも、悪くない気がした。一番大切なあの子が、薄い板の中で笑ってくれていたから。
決戦に敗れない範囲で、一番お気に入りの装備を整えて。いざ足を踏み入れて。
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あっという間に、すべてが終わった。
すべてが終わって、大好きなあの子を、しっかりと私のこころに焼き付けて。
すべて、ここに残って。私は、立ち尽くす。
貴女に出逢えてよかった。貴女と一緒に、迎えられてよかった。
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だけど、私はどうにも欲張りさんみたいで。
最後に言ってたじゃない。叶えたい夢、たくさんあったんでしょう? 私が行けない向こうの世界で、向こうの世界のみんなと叶えていることを、願いたい。
でも、ほんの少しだけ、いや、だいぶ大きい気持ちが、あるんだ。私に笑いかけてくれた、あの声を忘れたくない気持ちが。
もしそのヨクボウを、これからの私が忘れ去れないのなら。そのヨクボウを抱き続けることが、許される世界であるのなら。
ほんの少し未来の私は、あの子が願ったささやかな幸せを、あの子のおもかげと一緒に噛みしめるのだろうと、強く想った。