大好きな宝石商リチャード氏の謎鑑定シリーズが終わってしまった。かなり長期の連載小説で(2015年から連載だったかな?)、自分も以前から存在は知っていたけど、読み始めたのは3年ほど前から。
このシリーズの何が好きかって、とにかく作品がやさしい。人間の善性を信じられる、信じたくなるようなやさしさが物語の根底にずっとあって、安心して読めるところが大好きだ。このシリーズを読み始めたころ、うつの症状もあり本があまりスッと読めない時期で、それでも何か読みたいと思って手を伸ばしたのがこのシリーズだった。そうしたらすぐに物語の世界に引き込まれて、刊行されているシリーズをすべて読み終えてしまった。自分にとって本を読むことが苦行になっていた時期もあり、本を読む楽しさを再び感じられたのがこのシリーズで、そんな本に出会えてとても嬉しかった。
そしてシリーズ最終作の『比翼のマグル・ガル』。読みながらたくさん泣いてしまった。正義の弟でありもう一人の主人公であるみのるが、最後に「優しい人になりたい」という目標を掲げる場面が好きだ。みのるくんだけではなく、正義もリチャードも、メインの登場人物みんな、色々な傷を負ってきても「優しい人」になること、「優しい人」であることを選択してきた人たちだと思う。傷つけられても「優しい人」であるには強さがいる。私自身もそういう選択をしていきたいし、そういう世の中が良いと強く思った。
あと自分はアロマンティック・アセクシュアルを自認しているのだが、そういう部分でもありがたい描写がたくさんあった。とくに最終巻。正義とリチャードがパートナーになり、そして性的な接触があるかないかで関係性は変わらないという答えを出したところに安心した。(と思うと同時に、関係性とか性のあり方なんて本来自由でいいはずなのに、「答え」を出さないと大多数の形とは違うことを証明できない、というのも変な話だと感じた。社会の問題)。大多数の答えとしてはこれだから、ではなく、彼らが選択するとしたらこれしかありえない、という関係性に着地したのが本当に良かったし、辻村先生の誠実さを感じた。
最終巻の「散らない桜吹雪ではなく、毎年違う桜吹雪を」見たい、という文章が好きだ。辛い記憶は過ぎ去るし、幸せな瞬間はこの先を生きる糧になる。そんな風に思える最終巻(というかシリーズ全章)で、このシリーズに出会えて本当によかった。辻村先生、長期間の連載お疲れ様でした。まだ分厚い短編集が残っているので大事に読みたい。