setomonononeko
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交通事故の現場を通りがかりに見た。というか視界に入り込んできた。大破した車は悲惨そのもので、その近くでは救急隊員が救助活動をしていた。現実なのに幻みたいな光景に怯む。だれかの日常が壊れた瞬間を目の当たりにして動揺からか涙が頬をつたった。わたしの日常もあの車のように壊れやすいものなんだろう。

気持ちは沈んだまま、その後に神社の前を通った。神社の鳥居の前にはひとりの参拝客がいて丁寧に一礼をしている。わたしはそのひとのなんてことのない一挙手一投足から目を離せなかった。そのほんの一瞬のことが脳内に鮮明に刻まれたみたいで、昨日だったら見過ごしていたと思う。日常と地続きにある宇宙の星の無い深い闇みたいなものへの敬意と畏敬の念が込められた祈りのような一礼だった。それは力強くさらさらと光っていた。いつのまにか全てが浄化されて胸の内が晴れやかになり明るい。もしわたしがアフターヤンという映画に出てくるヤンだったらこっちの瞬間を記録して残したいなと思う。