注意! この感想文には「水木」というキャラクターに対する個人的な憶測や感情が含まれています。中には戦争や病気などセンシティブな情報も含まれております。しかしこれは「水木」というキャラクターに対してであり、実在する/した人物や団体に対して向けるものではありません。
最近Twitterで『ゲゲゲの謎』(以下、「ゲ謎」とする)のファンアートをよく目にしていたのですが、映画が公開される以前から「水木」という男のことが非常に気になっておりました。垂れ目釣り眉、憂いを感じる涙袋、神妙そうな表情、目元を縦断する傷跡、分け目の美しい爽やかな前髪、足の短い純日本人体型、身体のラインに合わないダボついたスーツ。ぜ〜んぶ好みど真ん中! しかし流血表現が苦手なのでどうしようかと悩んでいたところでニシダさんからのお誘いをいただき、即日映画館へ行くことが決定しました。平日なのでレイトショーに行くことになったのですが、昼間に用事があってもその後に楽しい予定があると一日中遊んでたようなお得な気持ちになれますね。その代わり昼間の記憶が軒並み吹っ飛んでしまうのですが。
さて、ゲ謎の感想なのですが、いちばんに思ったのは「動く水木やばいな」です。最近の若者らしくすぐ「やばい」という形容詞にすべての情動を託してしまう悪癖。でもこればかりはやばいとしか言いようがない。いわゆる劇場版の作画といいますか、アニメーションがすごく綺麗で、何気ない動作や重心移動などが丁寧に表現されているおかげで水木の体重を感じるというか、生きてるって感じがするんですよね。そしていちいち動作が色っぽい!! ずるいぞ水木!!!(個人の感想)
場面が昭和の日本に遡ってすぐ、そこには自身の成功のために身を粉にして働く水木の姿が! 公式ホームページのキャラクター紹介ページに立つ水木と初めて目を合わせたときから彼の瞳には野心がある……と思っており、その直感を確信に変える良いシーンでした。煙まみれの列車の中で煙草をコツコツ叩く水木のギャップも良かった。近くに座る少女が咳をするのを見て煙草に火をつけるのを躊躇するくせに、最終的にはマッチを擦れてしまうところが好き。道徳や倫理としての善性を持ちながら、それを自分のために切り捨てられる悪性も備える。煙る車内の様子を見るにそうじゃなければ瓦礫の国だったかつての日本ではのし上がれないのだろうと思う反面、単に長いものに巻かれているだけのようにも思えた。周りが煙草を吸い続けている以上はここで自分が煙草を吸わなくても少女の苦しみは変わらない。じゃあ自分が吸ってもいいだろう、的な。あとこれは勘違いかもだけど、工場で幽霊族の血を輸血された屍人の中に咳をする女の子いなかった?
もしかするとこれもPTSDの一症状なのかもしれない。ゲゲ郎が長田に捕まって乙米の前に差し出されるシーンで、乙米の発言が軍属時代に玉砕を命じてきた上官の言葉と重なり、けれど何もできなかったシーンの伏線というか。そういえばPTSDで思い出したんですけど、村に着いて二日目の朝のシーンで身体にも傷跡があることが分かったときはどうにかなるかと思いました。あとこのシーンではないけれど映画を見ている中で片耳が欠けていることに気づいたときも心拍のBPMが二倍になりました。身体に傷跡のある殿方が好き。
ところで水木、作中でいっぱいSAN値減らしてて非常に良かった。従軍時代でゲ謎開始時点でのSAN値すでに低そう。イメージはSAN値50/80ぐらい。アイデア高いから発狂しがちだけど幸運が高いのでなんとか生き残るタイプ。脱獄したゲゲ郎を温泉で見つけたときの対応とかね。穴蔵の前で妖怪が襲われた時と丙江が死亡した後のゲゲ郎との会話時に「失神」という形で発狂したのも良かった。気絶するときに白目剥いてるのとそうじゃないの(開眼/閉眼両方あったはず)をぜんぶお出ししてくれて本当にありがとうございます。話を戻すと、幸薄そう(実際に運が悪いかは問わない)な見た目の水木が幽霊や妖怪という知らない世界に足を突っ込んで発狂してるところが良かったです。入ったら駄目だと言われていた湖の島に立ち入って鼻血出してたの可愛かったなあ。というか作中通してよく鼻血を出してた印象があります。全身から血出してるときも大体鼻血出てた気がする。平時でもよく鼻血出る体質なのかな? 寝起きに鼻血出ててビックリしたことあるんじゃない??
水木が元軍人であるところもすごく好きです。歩兵銃を使えて体術もできる。ついでに血塗れになっても斧も振るう。体力あるところが良いですね。あと投獄されたゲゲ郎の前でご飯食べるシーンでも食べるスピードが異様に早くて、あれも戦時を経験しているからかなと思った。ものを食べてるシーン、色っぽかったなあ。
水木が使ってたのは三八式なのかなと思って軽く調べてみたら、WW IIの時点では歩兵銃として九九式(九八だったかも)が開発されてたっぽい? というかなんで三八式は西暦なのに新型の方は皇紀で命名されてるんだろう。陸海で命名基準が違うのかと思ってたけどそういうわけじゃないのかな。今度調べてみようと思う。
沙代ちゃんに対して打算的で紳士的な振る舞いをする水木、コンプラが令和のそれ。未成年に対して手を出す大人の描写があまり好きではないので、そういう点で水木の沙代ちゃんに対する反応全般がすごく好ましく見えました。ただ工場に連れていくのは大人としてどうなんだ……と若干思わなくもないけれど、霊に取り憑かれまくっていることと村を襲う霊障の元凶であることに気づいていたことを考えるとまあ……でもそれってすでに沙代ちゃんを妖怪扱いしてたってことでは? 個人的には沙代ちゃんが灰になった後、彼女の喪に服してからゲゲ郎の妻を探しに行こうと立ち直るまでの態度の切り替えが機械的(しかもめちゃくちゃ早い)でゾワっとした。まるでスイッチを押したみたいな切り替わり方。あまりに人の死に慣れすぎている……。
血塗れの水木が呪詛返しの呪具を斧でかち割ったとき、時貞に「会社をやろう」みたいなことを言われて「つまんねえやつだな」みたいに返したシーン、ここで戦時中から終戦までに抱いたトラウマのようなものを少しでも清算できていたように思えてテンションが上がった。「ツケは自分で返さねえとな」的なことを言って気絶する水木、最後までずっとゲゲ郎の頼れる相棒だった。
なんか水木はずっとイイ奴だった。ゲゲ郎にアイス奢るし。自分の出世のためなら周りをどれだけ利用してもいいと思いながら、それでも目の前で人が死ぬのを見るのは嫌だし、子供には明るい未来を見てほしいし、幽霊や妖怪も自分に歩み寄ってくれるなら決して拒絶はしない……そういうところが清廉で良かった。あの村にいたら大体の人は清廉に見えると言われればそうですけども。
ゲゲ郎と水木、私の中で文句なしのベスト相棒賞2023だった。個人的な解釈だと恋愛感情とか性的コミュニケーションを伴うタイプのふたりではないと思っている。あくまで妻一筋のゲゲ郎とその気持ちを尊重している(惚気には辟易している)水木の図が好き。ゲゲ郎が水木と恋バナしてるときにゲゲ郎が「いつかお主にも運命が現れる」みたいなこと言ってた気がするんですけど、そういう運命とか愛とかの相手と出会う“いつか”が今だったと思っている。墓場から生まれた赤子を殺さすことなく抱きしめた水木の愛が深すぎる。何も思い出せなくなっても魂に爪で引っ掻いたみたいな違和感があって、それが水木のその後の人生に大きく影響を与えている。狂わせたとは言わないけれど、自分の人生に他者が介在して未来が変わること、変わるのを許容することが“愛”だと思う。そして魂に手を届かせた者こそが運命の相手だというのなら、きっとゲゲ郎は水木の運命だった。たぶん、ゲゲ郎にとっても。運命の席はどれだけあってもいいと思う。
以下全体的な感想。
いわゆる因習村と聞いていたんですけど、本当に因習で笑いました。そもそも時貞が卑属の身体を乗っ取ったのって今回が初めてなの? あの時代の人が近親相姦に対して抱く嫌悪感が水木と同レベル(話を聞いて嘔吐)だとするなら、龍賀の女の勤めを当然のように語る乙米の思想はここ三代ぐらいで築かれたものとは思えないんですよね。しかも当事者が言うから凄みがある。それか沙代ちゃんは時貞の子ではなく、乙米だけ唯一時貞とグル&ふたりが共謀してMの開発を始めたみたいな可能性もありそう。龍賀の女なのに近親相姦を揚々と語れるのは自分だけそうじゃないから説。そうなった場合、沙代ちゃんが長田の娘だと私が興奮します。あのふたり絶対デキてるよな。そういえば龍賀の女、十干からとられているにしては「乙」「丙」「庚」で抜けが多い&沙代ちゃんには十干にまつわる漢字が入っていないところが気になる。あと孝三に「時」が入ってないのは何故? 「時」がついている男は時貞の器候補というなら、孝三はそもそも生まれた時点で器足り得なかったのか。呪詛返しで発狂しない程度の力があっても?
映画の全体的な印象としては水木とゲゲ郎がPCのTRPG感があった。因習村に対してすぐTRPGプレイヤー的俯瞰で見る癖があります。あと沙代ちゃんが境遇、性格、ストーリー上での立場や振る舞いを含めてめちゃくちゃ間桐桜だった。というか工場でのラストシーンがかなりFate/heavens feelだったよね!? くうくうお腹が鳴りました! 丙江あたりから故意に殺して回ってる点で桜よりタチが悪いけど。そして水木は衛宮士郎ではなかったので沙代ちゃんルートには入らなかったのは……まあ、来世に期待しつつ道場で反省してもらって……。首絞められた水木を(結果的にではあるが)助けたのが長田なのはかなりびっくりした。乙米の仇か? アツいね!
映画のオチとして龍賀一族及び村人が全員死亡して終わったのが良かった。綺麗に風呂敷を畳んでくれた! という気持ちよさ。唯一時弥くんだけが気がかりだったけど、血桜のシーンですでに死んでいた&魂レベルではラストで救われたので本当に良かった。あと序盤に出てきた喋る球体が狂骨の排泄物だとわかってだいぶウケた。心が小学生なので……(…………)。
思い出しながらぼちぼち書けるのはこれぐらいかなあ。最初から最後までずっと面白かった。水木が動いているところを映画館の大画面で見続けられただけでも行った甲斐があったし、想像していたよりずっと話も面白くて大満足。グロいシーンもそれほどなかったのも個人的に助かりました。ストーリーを素直に追いかけて楽しむ反面、ことあるごとに水木に対して劣情や加虐心、バブみ等様々な汚い感情を抱いてしまい、ひとりで帰りの終電に揺られながら自己嫌悪したりもしました。総じて本当に楽しかったです。配布終了していたのか特典を貰えなかったのはちょっと残念。噂では夢想の絵画概念礼装って聞きました。近くの映画館でまだもらえるか気になると同時に、純粋にもう一度見たいと思いました。何より水木に会いたい。囚われすぎでは? 本当にそうです。円盤出たら絶対買うぞー!
おまけ
これは勢いで描いた水木wip。気が向いたら清書するかも。