私の悪癖のひとつに借りた本をよく返し忘れてしまうというのがあります。原因は様々、本を家に忘れてしまったり、返すのを忘れて帰宅してしまったり……。大抵貸し出し予約のないような本ばかり借りているので許してください、という気持ちでいたら、前回ついに「次の予約の人が待ってるんではよ返しにこいや」のメールが届き、ついでに親元にまで連絡が行き……。これはまずいと急いで本を返しに行ってからというものの、自然と図書館から遠ざかるようになっていました。図書館側からすれば良いことなのでは? 本当にその通りです。
今度こそは期限内に返します、と何かに対して祈りながらやってきた図書館。勉強用の本を借りるついでに新刊コーナーを覗くと記事タイトルの本がありました。昨今話題のウクライナ・ロシア。ついでに最近私の中でユーリonICEというアニメ作品に再熱しているというのもあって、行き帰りの電車で読もうと思い借りることに。本を借りるときは利用者が自分で貸し出しの処理をするんですけど、延滞常習者の私は学生証をかざすたびに(手続きする前にまず学生証で身元を照会する必要がある)今回こそは貸出停止になっているのでは?? と怯えることになります。ちなみに今回もなんとか借りることができました。良かったあ。
この本は東ガリシアのブロディに生まれたヨーゼフ・ロート氏(1894-1939年)が書いた紀行文(おそらくドイツ語で書かれている)をヤン・ビュルガー氏が編集・解説し、それを長谷川圭氏が日本語に訳して出版されたらしい。ちなみに初版発行が2021年なので結構新しい本。
開いて読んでみると、文章が非常に読みやすくて面白いし、ロシア革命が怒ってすぐのごちゃごちゃした様子を現地で見たジャーナリストの記録は非常に貴重でそういう意味でも興味深くて面白い。個人的にはサンクトペテルブルクについて取り上げる章があって良かった。ロシアの地名は結構頻繁に改名しているイメージがあるけれど(世界史的な意味で)、中でもサンクトペテルブルクはその代表格で、1914年から1924年までの間はペトログラードと呼ばれ、その後1991年までレニングラードと呼ばれ、今はまたサンクトペテルブルクと呼ばれている。コンスタンティノープルですらそこまで急いで改名されることはなかった。外国に住む私ですら変だなあと思う違和感をいちばん感じていたのは勿論その当時に現地に住んでいた人たちで、ヨーゼフ・ロート氏はその人たちの気持ちや町の空気のようなものをそのまま教えてくれた。本当にありがとうございます。
他にも個人的に興味のあるナショナリズムについてや最近話題のトコジラミの話も印象深かった。特にトコジラミについては、私はたまたまTwitterで話題になるよりもこの本を開いた方が先だったので、何だかタイムリーだな……と思っていました。ちなみにヨーゼフ・ロート氏はトコジラミに刺されまくってたらしく、「トコジラミと過ごした夜 カルパチア・ロシア、五月」の表題でベルリンの新聞に記事を乗せている。この記事の最初にあった、「昨夜、シラミを見つけたから、すぐに殺したんだ」「そうか、殺せて良かったな」「よくないよ。そのあと、お悔やみを述べるためにたくさんのシラミがやってきたからな」(古くから伝わるジョーク)が好きです。古典的ジョーク、いいよね。
それともうひとつ、この本を読んで自分に教養が全然ないことを改めて自覚させられました。いや別に元々自分に教養があるとは思ってないけど、とはいえそれにしては記憶の抜けが酷いし(昨日も妹に世界史を教えているときにアッシリア帝国が解体した後の四王国とマケドニア王国が解体した後の四王国を混同してしまいとても恥ずかしかった)、そもそも知らないものもある。これは昔(19世紀あたり)の西欧人が書いた著作あるあるだと思うんですけど、ギリシア古典の引用や同じ時代の有名な本からの引用がまあ多い……その内容を知ってたら何も問題はないけど、実際はそうもいかないので本当に困る。身内ネタに乗れないときの寂しさは万人共通ですから……。
とりあえず面白かったのは本当。図書館はちょっと興味あるな〜って思った本を気軽に借りれるところがいいよね。大学図書館は小説とかはほとんど置いてないけど、その分学術書とかの数はいっぱいあるので本当に楽しい。自分が専攻している分野の本以外本を読むのはちょっと罪悪感があるけど、それでも電車で寝るよりはまだ有意義だろうと言い訳をしている。次は何の本を借りようかなあ。あ、ちなみにこの本は12月5日(水上敏志の誕生日!)までに返却すればいいので、今回はちゃんと期限内に返すことができたのでご心配なさらず……。勉強用に借りた本も今度こそきちんと返します。本当です。許してください。