Vintery, mintery, cutery, corn,
Apple seed and apple thorn;
Wire, briar, limber lock,
Three geese in a flock.
One flew east,
And one flew west,
And one flew over the cuckoo's nest.
(マザーグースの一節「カッコウの巣の上に」より)
前半部分は韻を重視したものなので今回は置いておくとして、『カッコーの巣の上で』を語るうえで看過できないのが、この小説でも日本語訳として挿入されている後半の3行。
一羽は東に、一羽は西に、
一羽は、カッコーの巣の上を飛んでいった。
英語圏において「カッコー」は精神異常者、「カッコーの巣」は精神病院という意味を持つスラングとして扱われているらしいけど、マザーグースとこの小説との時系列がよくわからないから何とも言えないところ。知ってる人いたら教えてほしい。あと、マザーグースは「上に」なのに小説のタイトルは「上で」だし日本語訳に出てくるのは「上を」で助詞が混在しているのはそれぞれ翻訳する際に日本人向けの表現にしたからだそう。へぇ~。
小説『カッコーの巣の上で』の舞台は1950年代から1960年代のアメリカで、犯罪者を収容する精神病院の出来事が描かれている。閉鎖的な精神病院に突如やってきたR.P.マックマーフィーが他の患者たちを巻き込んで規則に反発し、厳格なラチェッド婦長と対決する。自由と統制、その決着はいかに……!?みたいな内容だと思ってたけど、精神病院を当時のアメリカ社会のメタファーだと捉えるともっとスケールが大きい話なのかな。
読んでいて驚いたのは全編を通してブロムデンという精神病患者の語りによって物語が進んでいくところ。よくある手法ではあるけど、彼は耳が聞こえないふりをしているため他の患者とのコミュニケーションが不自由で、一方的に入ってくる情報のみを語っているという点で、いわゆる「信頼できない語り手」としての側面が出来上がる。
いろいろあってラチェッド婦長の怒りが限界に達し、マックマーフィーは最終的にロボトミー手術を強制的に施されて廃人同様にされてしまい、しばらくしてブロムデンの手によって殺される。そして他の患者の助けを借りつつ、マックマーフィーによって規律が崩壊した精神病院をブロムデンが立ち去り、自由への切符を手にするところで物語は幕を閉じる。マックマーフィーを殺した動機が、哀れなマックマーフィーを見かねてなのか、もしくはこれも精神病院への反抗だったのか、どちらにしてもマックマーフィーの死をもって自由への道が開けた(=婦長に対する勝利)のがものすごく残酷な皮肉。
のちに映画も制作されてるけど、そっちは完全にマックマーフィーを主人公に置いていて、精神病院内の出来事しか描かれていないらしい。加えて小説版と違ってマックマーフィが悪、ラチェッド婦長が正義かのような脚本っぽくてちょっと自分としてはがっかりかな……。あくまでも原作ではマックマーフィーは病院の規則から外れない程度に少しずつ駆け引きを重ねていっただけであって、悪行の限りを尽くしたとかそんなことはないと思っているので。それだけでも婦長からすれば忌々しい存在に映ったのは事実だろうけども。小説はブロムデンの独白パートもあってかなり濃い内容だったからなおさら映画だと違う印象になるのかな。
わたしが考えたのは、この小説における「カッコー」もっと言えば「『巣の上を飛んでいった』一羽のカッコー」は誰なのかということ。カッコーには他の鳥の巣に卵を産み付けて育てさせる托卵と呼ばれる習性がある。つまり自分で巣を作る必要がないから、「カッコーの巣」というものは自然界に存在しないことになる。そして最初の方にも書いたように、「カッコーの巣」は精神病院という意味を持つスラングだから、社会から存在を否定された人々、すなわち物語の中の精神病患者たちが「カッコー」なのかな。「『巣の上を飛んでいった』一羽のカッコー」に関してはいろいろな解釈ができそうだけど、わたしはやっぱりブロムデンのことを指してるんだと思う。マックマーフィーや精神病院に残ったであろう他の患者たちを足掛かりに精神病院を出て行った彼は、まさに「カッコーの巣の上を飛んでいった」んじゃないかな。
最後にこの小説に出会うきっかけになった曲を紹介させてください。
すでに解散してしまったバンドですが最近よく聴いています。いつかthe cabsについても何か書けたらと思っています。本当に好き。
おわり