先週の日曜日に映画ドラを見てきたので感想を記す。ネタバレがあるのでご注意を。
総評として、演奏シーンに懸けて要素を詰め混んでる作品だと思った。序盤と終盤がとてもよかったし、音楽がテーマなので映画館で見た方がいい映画だと思います。ただ、中盤があまりにゲームのチュートリアルっぽかったです。
まず前提として監督である今井一暁さんの話なんですけど、僕は彼の過去作が解釈違いというか、自分が映画ドラに求めているではないものをお出しされている、という感じなので、あんまり期待はしていなかったんですよ。
新恐竜も宝島も、展開のファンタジーさ、悪く言えば都合のよさが強い印象がある。また、キャラクター(特にのび太)の感情表現がオーバーすぎると感じてしまい、新恐竜で言えば恐竜が飛ぼうとするのを泣きながら応援するシーンが冗長としか思えなかった。(気が向いたら新恐竜の話もしよう)
ただ、悪い作品なのかと言えばそうではないのだ。展開に思うところがあったりオーバーだったりしつつも、「見なければよかった!」「これはつまらない!」というものでは決してない。抑えるところはちゃんと抑えているし、表現がオーバーということはそれだけクライマックスの盛り上がりに力を入れてくれるので、観たときの満足感は高く、面白い。
ただ、どうしても合わないというか、なんとなく俺の欲しいものとは違うんですよね。これについては感性の問題だから仕方ない。あくまでも俺は子ども向け作品からしか得られないものを得ようとしている、いうなればおこぼれをもらう立場なので、合わないこと自体はいいのだ。そのうえで、俺はここ合わねえ~って管を巻くだけなので。
んで、監督の過去作が合わなかったという話なんですが、一つ思ったのが、今回脚本家が違うんですよね。確か前二作は川村元気が脚本で、今回は内海照子。俺が合わねえ~ってなった要素は川村元気由来だった可能性もあるので、どっちとセンスが違うのか確かめようじゃないのと思って見に行ったのである。
結論から言うと、前二作ほどではなかったといえ、やっぱり今井一暁と合ってないんだと思った。予告編にあった「のび太の『の』の音」ってフレーズからなんとなくそんな気はしていたが。
とはいえ、観ていて面白かったんですよ。
序盤、OPの映像は迫力満点で満足感が高い。人間と音楽は常にともにあった、という今作の大事なことも実に明確に伝えてくれる。正直ここだけで映画館来てよかったと思ったね。で、世界最古の楽器である白鳥の骨で作った笛の話に、ははあん、どっかのタイミングでこれが作られた時代に行くんだな? と思うなどする。映画ドラでよくあるチェーホフの銃、大好き。
あと、音の演出に力を入れていることがこの時点でよくわかる。蝉の声、道行く人の鼻歌、街頭を流れるメロディ、母親の子守歌。それらが印象的に画面に表れて、なんとも幸せな風景だと思う。映画ドラでこういうのびドラの周囲だけでない、普通に暮らす人々やその街並みが映るの好きなんですよね。のび太の恐竜2006の夏!って感じとか好きだった。
そして、それらが十分に描写されてからの、のび太があらかじめ日記を使うことにより音楽が消えたシーンもいい。先ほどまでとは違い、音楽の消えた中で人々が困惑し、ストレスを感じている描写たち。こういう対比好きですね。ところで俺はてっきり、魔界大冒険の時みたいにしばらくこのまんまなのかな、と思っていたらその場で解決されたのでちょっと意外だった。
河原での演奏シーンも楽しくて良かったし、なによりファーレの殿堂に足を踏み入れたところはとってもよかったです。招かれたのに誰もおらず、不気味に思う5人だったが、階段を上ったり、手すりの柵に棒を当てたり、ポンポン跳ねたりと、次第に楽し気な表情に変わっていき、実に原始的で身体的な音楽の心地よさに身を任せる。あそこの一連の流れはとても好きでした。
ただ、これが終わっていざファーレの殿堂をめぐるあたりから、若干首をかしげたくなった。前述したとおり、どうもチュートリアルっぽいのだ。音楽の力で川に水を流しましょう、そのためにはこんな風に演奏しましょうね、悲しそうにしているキャラクターには、悲し気な音楽で寄り添いましょう……のあたりは、DSにこんなゲームありそう、という気持ちになって観ていた。まあ、若干退屈というだけでやっていること自体はいいのだけれど、この辺を丁寧にやったせいで尺のバランス悪くなってるんじゃないかな、というのは思った。終盤に近付いて、師匠と対面してから歌姫ミーナのもとに行くあたりがかなり駆け足だったように思う。ミーナとミッケの関係性はとても面白い要素だと思うのだけど、その分、ミーナの描写が少ないのが俺はもったいなく感じる。というか全体的にゲストキャラクターの描写が物足りない。中盤から終盤にかけてほとんどが設定や演奏の説明で話を進めており、掘り下げというものが薄かった。要は力の入れどころが合わなかったのだ(企画的に仕方のないことではあったのかもしれない)。
お墓のシーンとかとてもインパクトがあったし、その後のミッケの様子から、明るくふるまっていても堪えていたのだ、というのはわかるのだけど(この辺の描写の上手さはある)、その出し方でいいのか……?というのは思った。ここで雨が降ったのがそれを示している、という話を聞いたのですが、ちょっと記憶が確かではないのでここでは特に触れません。あと楽器の練習描写について、上達早いなあ、とか思いはしたものの、子供向け作品でその辺に尺取るよりは、楽しいよ!ということを前に出した方が絶対いいと思うので、その辺は気にならなかったです。
で、「のび太の『の』の音」について。まず『の』の音ってなんやねん、というのは初出の時点でちょっと思ってたんですが、まあそれは印象に残るフレーズとして出ているだろうしいいかと思っていました。ただ、それが物語の重要なギミックに絡んでこられると、さすがに都合のよさに引っかかる。『の』の音は今回のムシーカ星の影響でのび太が出していた音、ということもなく、本当にただ、のび太が音を外した時に出る音だったはずだ。それがたまたま必要な音となったところで、それはのび太が冒険や練習を重ねる中で獲得したものではない。どころか、練習をちゃんとしていたのだから、『の』の音は出なくなるはずなのではないか? 夜にちゃんと練習していた描写を差し込むからこそ、『の』の音がそのまま肯定的に使われることに収まりの悪さを感じる。出ない音、そのたった一音だけ出すのでなく、ミッケが曲を奏でる中で、リコーダーで出ない音の分もカバーする、とかでもよかったんじゃなかろうか。いやでも、のび太が「できるやつ」になるとそれはそれで違う。のび太の塩梅って難しいよな……。俺が面倒くさいだけと言ってしまえばそれまでだけど……
ただ、いろいろ言ったけれど、クライマックスの演奏シーンは本当に良かった。これに関しては本当にもう見ればわかる。地球から音楽があふれるシーンめちゃくちゃいい。世界各国の包丁が奏でるリズムも好きだし、一瞬映る戦場のシーンは名シーンだ。ミーナのライブ会場とリンクするのもよい。
そして何より、「夢をかなえてドラえもん」のフレーズが流れたとき、俺は本当にぐっと来た。この曲だ。この楽しくてワクワクするメロディ。これを入れてくれたことには本当にありがとうの気持ちでいっぱいである。
みんなでお風呂に入ったのもよかったですね。あそこは映画ドラらしいというか、俺の好みです。その前の、完全に無音になるところも、のちの演奏シーンに向けたいい演出でした。
というわけで、感想は以上です。