まぼろし

shikakun
·

転職して3ヶ月くらいは、前の職場で働く夢をよく見た。見知った顔に、あれ!戻ってきたの?なんて声をかけられては、えへへ… またお世話になります、と照れるという夢。最悪な目覚め。でも、10年以上も働いたから、それなりに喪失感はあった。初めての転職による価値観のギャップも、想像以上に大きく感じられた。ちょっとしたホームシックのようなものだ。だから、必死に目の前のことに取り組んでいるうちに、やがて悪夢も見なくなった。

ホームシックは2度ある。転職からそろそろ9ヶ月。ふと、思い出したようにSNSで前職について調べてしまう。べつに、今がイヤだから戻りたいみたいな話ではない。むしろ転職したのは、僕の場合は、よかったと思っている。転職したところで一向に悩みは尽きないままだが、環境による悩みなのか、自身に起因する悩みなのか、問題を切り分けられたのは、よかった。場所を変えたところで、変わらないものがあることも、わかった。それでは、なぜ辞めた会社の発信を、つい追いかけてしまうのか?

たぶん、僕はまぼろしを見ているのだ。あのとき選ばなかった僕が、だんだん薄くなってやがて消えていく、まぼろしの姿を。そうやって確認しないと、無数の選択の果てに勝ち取った、この椅子に座っている僕の姿もまた、やがて消えてしまうような気がして。生きることは選ぶこと。選び続けること。選ばなかった僕と別れること。選んだ僕を信じること。