インタビューの際に唯一持っていくもの

詩乃 / shino
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ライターになったばかりの頃、インタビューの仕事が不安で不安で、これでもかというほどの準備をするタイプだった。

インタビューは、だいたい1〜1.5時間ほどの所要時間で行われることが多いのだが、その間、話がちゃんと繋がるのだろうかとか、記事に書ける内容を聞ききれるだろうかとか、そういうことをずっと考えていたからだ。

おかげで、いつもインタビューに際して用意する想定質問は約20項目ほどにのぼるようになった。これはたぶん、ほかのライターさんと比べてもとても多いと思う。よく見るケースで、7〜10項目程度を用意している人はいるが、20項目はなかなか心配性だろう。

わたしは、下調べとそれだけの質問項目をとことん用意して、はじめて安心してインタビューに臨めるタイプの人間だった。

ちゃんと話題を繋いでいくために、インタビュアーとしてしっかり話を引き出すために、欠かせないことだと思いながら準備をしてきていた。

ところが最近は、インタビューのときに、想定質問というものをほとんど持っていかなくなった。代わりに、一つだけ、持っていくようになったものがある。

それは、いわゆる「仮説」だ。これから行うインタビューが、いったいどういう方向性のものであるのか、仮説というかたちで用意するようになったのだ。

たとえば、とある人材の採用を目的とした記事のインタビューを担当したとする。そういった場合であれば「この人たちにとって、どういう人が入社してくれることが理想なのか」という問いに対して仮説を立てる。

その仮説が、概ね合っているのか、果たしてまったく異なっているのか、それをインタビューを通して聞き出すイメージだ。

途中の対話で聞きたい質問項目はほとんど用意せず、ただ、仮説に対する結論を出すために話をしていく。

要するに、インタビュイーに話をしてもらうという、受け手としてのスタンスではなく、対話者としてインタビュイーの前にいようとしているのだ。

教えてもらうのではなく、互いに、語る。そうした営みを通して見える気づきや関心が、記事をおもしろくするのではないかと感じるようになった。

対話のなかで、わたしがどんな問いを切り返すのか。インタビューが始まる前にはまったくわからない。

だけれども、対話を重ねていけば、聞きたいことや知りたいことなんてどんどん増えていく一方になる。だから、結局のところは与えられた時間をフルに使った、実りある対話時間となってくれている。そうして聞いた話は、すでに掲載されている記事をなぞるようなものではないことが多く、無二のものとして刻まれる。

事前に組み立てた質問リストに横線を引いて紹介していくようなインタビューよりも、ずっとずっと生産的で「生身」の話が聞けるようになってきた、と思うのだ(もちろん、それができる対話力はこれまで徹底的に質問項目を考え尽くして身につけたものだが)。

最近はそんな思想でインタビューに臨んでいるから、毎度の仕事が実験的で楽しい。加えて、話してくれているインタビュイーも、求められたこたえを話すのではなく、思考したうえで生まれた言葉を話してくれているように見受けられることが増えてきた。

インタビューにこれといった正解はないだろうけれど、わたしはわたしなりの方法で、唯一無二の聞き手として鎮座していたいと思っている。

@shino74_811
暮らしが好きな旅の人。属性は編集者。もっとも気を抜いて文章を書いている場所なので大した期待はしないでください。