エンタメの楽しみ方くらい、自由にしてやれよ

詩乃 / shino
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好きなバレエダンサーさんが新作公演を引っ提げて、東京・かつしかシンフォニーヒルズにやってきたので、地元ということもあり訪れた。

バレエ作品は学生時代から好きなエンターテインメントのひとつだが、最近はなかなか楽しむ機会から離れていたので、すごく待ち望んでいた。バレエってむずかしいと思われがちだが、物語は結構シンプルだったりするし、なにより「美しい」という感動でいっぱいになれるのでおすすめだ。

彼らの公演は、良くも悪くも「エンタメバレエ」というカテゴリのものなので、クラシックなバレエとは少しだけ雰囲気が異なる。

彼ら自身はアメリカの高名なバレエ団出身なのだが「バレエの魅力を広めたい!」という意思のもと、YouTubeでの発信活動やクラウドファンディングなどに果敢に挑戦しているため、対象がバレエをはじめて観る人、ないしは、あまり観たことがない人。いわゆるカジュアル層だ。

だから、公演中にどれだけ拍手をしても構わないし、ちょっとした歓声も歓迎。公演自体も強い照明演出があったり、スクリーンに投影した映像とのコラボレーション、ヒップホップダンスを取り入れた動きなど、多岐にわたって見せ方を画策している。

バレエに対して「ハードルが高い」と思っているであろう人々と、接点を生み出すために考えられた数々の演出は、世の中との橋渡しをしてくれているような感覚で観れるので、新鮮でたのしい。

ところが、この公演の日、たまたまわたしの隣にはバレエを習っているであろう学生さんとその親御さんが座っていた。ライト層人気は確固たるものであるが、同時に、バレエを本気で頑張っている若者への影響力も、彼らは多大なのである。

幼い頃からバレエの世界にいる人たちにとって「エンタメバレエ」はおそらく邪道だ。だからか、親御さんは休憩時間につぶやいた。

「ここで拍手するってところじゃないのに、なんでみんな拍手しているんだろう。ちょっとわかっていない人って感じで、なんかな……」

まあね〜言いたいことはわかる気もする。格式のある舞台芸能 ── たとえば歌舞伎とかも、ある程度のルールやマナーがあって、上品に嗜むべきシーンを求められることもあるから。

けれど、そうはいったって歌舞伎にせよバレエにせよ大衆芸能なのだから、根本的には各々の楽しみ方で観ればいいはずなのだ。堅苦しくしようとする玄人がいると、その分だけ、カジュアルに「楽しんでみたい」と願う人の興味を削ぐ理由になってしまう。

芸能は、愛されてなんぼの世界なのであって、コアファンだけで成立するものではない。むしろ、観劇玄人こそ、楽しみ方をはじめましてさんと一緒にシェアできるくらいの心の余裕がほしいものである。

エンターテインメントは、すなわち「娯楽」だ。「気晴らし」だなんて訳されることもある。それなら、自由に、気ままに楽しめたほうがいいのでは。隣の席の会話にむずむずしながら、ふとそんなことを思うのであった。

@shino74_811
暮らしが好きな旅の人。属性は編集者。もっとも気を抜いて文章を書いている場所なので大した期待はしないでください。