わたしが17歳、すなわち高校2年生だったときに出会った恩師がいる。彼女はわたしが通っていた高校の化学教師で、(なんでか知らないが)すごく仲良くなってよく話すようになった人だった。
大学付属だったために、他大の受験に寛容ではなかったわたしの母校。生きづらい校風のなかで、彼女は「好きに生きな」とわたしの背中を押してくれる、数少ない人だった。
もう高校卒業から10年経っているし、彼女も教師を辞めているので時効だったと思い言うが、当時から私たちはよく二人で出かける仲で、大学のオープンキャンパスに彼女を連行したり、彼女の洋服選びに放課後連行されたりすることがあったり、そのままカラオケやらごはんやらに行っていたり。たぶん、教師的には全然ダメだが、わたしはそういうタブーさが好きだった。
わたしが高校を卒業し、彼女も配属先の高校が変わり、いろいろと環境が変化してからは会う頻度こそ減ったが、連絡だけはずっと取っており、なんだかんだと近況を話す仲として続いてきていた。
そんな彼女から、今日、2024年最初の連絡をもらった。とくに毎度トピックスがあるわけではない私たちの会話において、今日もとりとめのない話を続ける我々は、もはや教師とか生徒とか超えて、ただの友人に近いものがある。
彼女がなにを思って8個下のわたしと雑談をしているのか、その本音をいつか聞いてみたいものだが、たぶん大した考えはないのだろう。
昔から、自分の弱さを年下であるわたしにも吐露してくれる人だったし、わたしもまた脆い自分の心の内をよく話していた。助けてもらったことも、一度や二度じゃない。
と、思いきや、今回の連絡は意外にも内容の濃いものだった。
彼女 「近況報告がある」
詩乃 「ほう」
彼女 「おなかから最近蹴られてる。あと、名前が変わった」
詩乃 「はい!?」
彼女 「悪魔の契約書にサインしたんだよね」
詩乃 「めでてえ」
多少の脚色を交えて書くが、こんな調子だ。おもろいこと、この上ない。ちょっと連絡があいたその間に、人は結婚して妊娠している。
彼女 「てか待って、この話したの、親以外には詩乃がはじめてかもしれん」
詩乃 「いろいろ問題ある」
彼女 「弟にすら話してなかったわ」
詩乃 「絶対に話す相手間違えてるよそれ」
コロナ禍だったこともあり、直接会うのはもう少し落ち着いてからと話していて、そろそろ久々に会おうかなんて計画を進めている今だが、次に会うとき彼女は名字が変わっているし、もう一つの命を宿しているのだ。すごい。感動しちゃう。
高校時代の恩師は、10年経った今でもひとりの人間としてわたしと縁をつないでくれている。すごくありがたいし、すごくうれしいし、すごくしあわせだ。
もはや教師だとか生徒だとか枠を超えた愉快な人間関係だが、ちょっとおもろいそんなつながりは、今後も大切にしていきたいと思うのであった。