先月、「教科書で出会う童話と絵本展」という展示に行ってきた。
小中学校の国語の教科書に載っている童話、絵本の原画やストーリーを展示する企画である。
『くじらぐも』や『スーホの白い馬』、『モチモチの木』といった有名作品がピックアップされていた。
もとより童話、絵本は大好きなのだが、それに加えて「教科書掲載の」ときた。
授業そっちのけで物語を熟読するような子どもだった(先生方ごめんなさい)人間には、なんとも魅力的な企画である。
ターゲットからおよそ大幅に外れているが、年齢制限とかないし一人で行っても通報されたりはしないだろう。
ということで向かった。
ゆっくり見たいので、平日月曜日の午前中に行くことにした。
盛夏の候は過ぎたとはいえ、日中の気温はまだ高い。
会場であるメルヘン館まで、電車と市電を乗り継いでもちょっとだけ歩く。果たして展示を回れる体力まで残っているか……と心配していたが、曇りの天候が功を奏しほどよい散歩となった。
館内に入ったとたん、案内のお姉さんが声をかけてくれる。
月曜日の午前中にソロで来館する成人。もしかしたら警戒させたかもしれないと若干の罪悪感を覚えつつ、言われるままに特別展とメルヘン館のチケットを購入。
地元とはいえ、実はお初だったので助かった。ありがとうお姉さん……。
特別展に向かう2階への階段を上ると、入口でワークシートとチラシをもらった。
ピークである夏休みはとうに過ぎていたので、だいぶ空いている。大当たりだ。

会場内では、ピックアップされた作品のイラスト、ストーリーテキスト以外にも、各学年の教科書が展示されていた。
撮影禁止だったので写真は撮れなかったが、学年別の教科書で選定される物語の基準や作品なども説明されていた。
生徒に伝えたいメッセージに合わせ、考えてもらえるように元の文章を編集することがあるらしいが、その差分を載せているなど。
言われてみればそうだろうなと思ったが、そこまで考えたことがないのでいい気づきになった。とても興味深く、わかりやすい。
また、教科書は手に取って自由に読むことができた。
開いてみて、こんなに読みやすかったかと驚いた。さすがUDデジタル教科書体……。
童だったころなんてはるか昔の話なので、ついつい読み込んでしまう。
さすがに『くじらぐも』や『モチモチの木』は中身もよく覚えていたが、『チックとタック』なんてあったかなと首をひねった。
あとで調べると『チックとタック』は昭和40年~60年度頃の教科書に載っていたそう。
世代的には少し前の掲載作品なので、「?」となるのも無理もなかったのか……童話ならではのおかしみとかわいさがあって、思わずふふっとなってしまった。
こんな感じでどれも楽しめたが、世代ど真ん中の『スーホの白い馬』、『大造じいさんとガン』は新しい見方もできた。
『スーホの白い馬』では、モンゴルが舞台なのに殿様と表記しているのが引っかかった。
童話、とくに外国を舞台にした作品で悪い権力者が出てきた場合、王様表記であることが多い。モンゴルの遊牧民文化と子どものイメージしやすさを考慮して、語感を掴みやすくするためなのだろうか。
と思って調べたら、おおむね合っていた。よし、楽しい。
『大造じいさんとガン』の残雪と大造じいさんの関係には、胸をアツくせざるを得ない。
漁師だからこそ獲物であるガンに遠慮も容赦もしない大造じいさんには、人間の業を感じてなんとなく肩入れしづらそうなのだが……仲間を手なずけて頭領を獲ってやろうという発想、今考えるとなかなかヤバい。
はずなのに、残雪の義理堅さ、気骨に胸を打たれる様と敬意、そして妙ともいえる絆。おいなんだよどっちもカッコイイじゃん……。
一人と一羽の関係も見どころだったが、一方で人間が他の動物より優れているという考えから一歩引いた話でもあるなと感じた。
我々と同じ言葉を持たないだけで、彼らなりの道理があるのではと。
これは『大造じいさんとガン』でも、『海のいのち』の太一と瀬の主クエとの関係でも感じた。
どれも大まかにしか覚えていなかったのでそうだこんな話だったと追いつつ、こんな意図が隠れていそうだなと推測するおもしろさ。そして、大人になってしまった自分に、少しさみしさを覚えたりした。
一方で、子どもの心のままで楽しめた作品もあった。
あまんきみこ作『白いぼうし』。
題名だけではピンとこなかったが、いわさきちひろさんのピエゾグラフ(イラスト原画ではなく複製画)が印象深く、どこかで見たと頭の隅に引っかかっていたが、ストーリーを読んで完全に思い出した。
これ好きだったー!
タクシーの運転手がモンシロチョウを逃がしてしまって悪いことしたな、そうだ夏みかんを代わりにと思って白いぼうしをかぶせたこと。男の子の呆然とした様子、謎の白いワンピースの女の子。
授業でやるのを待ちきれずに、物語だけ先に読んでいた記憶が鮮明に蘇ってきた。
こういう……現実の隙間に少しだけ感じられる幻想の一片みたいな話、めちゃくちゃ好きなのだ。
今、140字小説やショートショートを書いていても、(おこがましいが)自然にこんな雰囲気になってしまうのでわりと根底にあるのかもしれない。
展示を見終えて、併設されていた絵本や童話コーナーで気になった作品を読み漁っていると、昼もだいぶ過ぎていた。
さすがに空腹を覚え、一階のカフェ「あすもね家」でランチにする。
まあお腹を満たせるなら何でもいいかな……とメニューを流し見ていたら、なんとパンケーキとチキン南蛮、フライドポテトがのった夢のワンプレートがあるではないか。

ホイップクリームまでついてきて、脚も頭も働かせた身には最高過ぎた。
テンションが上がってカフェラテまでオーダーした。なんて贅沢なオフなんだ……。
腹ごなしをしたらいよいよショップである。
教科書掲載作品の絵本や収録本、各年代の小学一年生の国語の教科書表紙キーホルダー、クリアファイル、マスキングテープなどよりどりみどり。こういうのがいいんだよ。
だいぶ迷ったが、自分の年代の教科書表紙キーホルダーと、ぱっと見で気に入った表紙キーホルダー、小学校書写ねこのマスキングテープを購入。

私の年代は黄色の方なのだが、正直あんまり覚えていない。でもかざぐるまがいっぱいでかわいい。
青のキーホルダーは直感的にほしいと思った。くじらと馬がかわいい。
小学校書写ねこは……書写(ウン十年ぶりにこの言葉を使った)教科書に登場したのが令和になってかららしく、完全に初見だ。
が、このなんともいえない、ねこの表情とポージングがよすぎる。ほどよくゆるい。こいつが教科書にいると思うと、読むのが一層楽しくなりそうだ。
今年LINEスタンプ化したらしいが、納得のおもしろさである。
あとは帰るだけ……と皆さんお思いかもしれないが、ちょっと思い出してほしい。
入館時、お姉さんの言われるままに、特別展と一緒にメルヘン館のチケットも購入したことを……。
メルヘン館は絵本や童話の展示があるほか、不思議の国のアリスなど童話モチーフのオブジェ、遊具があり、子どもが思い切り遊べるスペースだ。
スペースと言ったが、3階までぶち抜きなのでちょっとした室内アトラクションである。
そしてお昼も過ぎ、大体おやつの時間に差し掛かる頃。
大人は疲れ切る時間帯だが、子どもにとっては学校が終わりこれからが本番という頃合いである。
ということで、来館時はひっそりしていた施設も、子どもたちの元気な声でにぎわってきていた。
そんな中にソロの成人が一人。
むろん一人で入ってはいけないとの規則はないが、想像しただけで異物感がものすごい。あと、ちょっと哀愁がある。(自意識過剰)
しかし、せっかくここまで来たし入館料も払っているしと、もったいない精神がスルーすることをとがめる。
悩んだ末、私はにぎわいの中に息をひそめて入場した──受付のお姉さんの優しい目が背中に刺さる。(自意識過剰2)
とはいえ、童話をイメージしたオブジェは等身大の飛び出す絵本のようだったし、子らの遊戯を邪魔しないように絵本を読めたりもしたので、だいぶ満足である。
こうして、童話と絵本展来訪は無事に閉幕した。
帰りは駅までバスにした。途中で雨が降ってきて、叙情を感じながらのいい帰途となった。
常設展は見られなかったので、また来よう。