アラスカのサバイバルおじさん

shiroe
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公開:2025/2/23

最近ハマっているYouTuberに、アラスカの極寒の地でキャンプをするおじさんがいる。Outdoor BoysというチャンネルのLuke氏だ。

彼は、夜にはマイナス30度にもなるような極限環境で、いわゆる「ブッシュクラフト」と呼ばれるスタイルのキャンプを実践している。これは、自然の材料や地形を活用し、最低限の道具だけで生き抜くという、なかなかに狂気じみたアウトドア活動である。

あるときは、20mの積雪に穴を掘り、雪の中に寝室とキッチンを作り上げてしまう。あるときは、雪をブロック状に切り出し、本格的なかまくらを築く。あるときは、枯れ木を大量に切り倒し、まるで小屋のようなシェルターを作る。あるときは、大量の石を積み上げ、その上にタープを張って寝床を確保する。

こうした工程を眺めるのが純粋に楽しいだけでなく、「なるほど、こうすれば生き延びられるのか」という学びの要素もある。(実際にそのような状況に直面することはないだろうが...)。そのため、動画を見終わったときには、何とも言えない満足感が残るのだ。

動画では当然カットされるため、30分程度に収まるが、実際には丸1日がかりの作業であり、相当な肉体労働である。さらに、極寒の環境に晒され、日が出ている時間は短く、風は強く、靴や手袋はびしょ濡れになる。まさに過酷な状況だ。

だからこそ、焚き火で温まるだけでも彼は本当に幸せそうだし、見た目は決して美味しそうとは言えない食事を満足げに平らげる姿は、見ているこちらまでほっこりする。おじさんなのに。

何より衝撃的なのは、彼の無骨さである。焚き火でパンを焼く際、鉄板がないときは、なんと焚き火の下の方にできた炭の上に直置きして焼くのだ。生地は当然湿っていて柔らかいため、最初は炭にくっついてしまう。

しかし、焼けてくると自然と剥がれ、問題なく食べられる。むしろ、炭が少しついて香ばしさが増すほどだ。これは理論的には理解できるものの、いざ実践しようとすると強い抵抗を感じる。なぜなら、炭火とはいえ、そこには石や土などが混じっているからだ。

しかし、そんな躊躇は文明人のわがままにすぎない。大自然の中では、それは何の意味も持たないのだろう。

ところが、彼はもともとそういう性格というわけではなく、試行錯誤の末にたどり着いた合理的なやり方なのだと思う。食器は毎回丁寧に洗うし、キャンプ道具も綺麗に掃除する。むしろ几帳面なほどだ。

実際のところ、彼の本業は弁護士であり、個人事務所を経営しているのだから、そのギャップには驚かされる。たしかに、見た目は完全にインテリ系であり、サバイバルと聞いてイメージするような屈強な大男とはかけ離れた姿をしている。だが、そのギャップに惹かれる。

彼の生い立ちは詳しく公開されていないが、アラスカで生まれ育ったことは間違いない。それは、彼の知識量が桁違いだからだ。

食べられる木の実とその生息地、生木と枯れ木の見分け方、動物の足跡から読み取る生態――これらすべてが、単なる机上の知識ではなく、長年の経験に裏付けられたものだということが、動画の随所で垣間見える。

しかも、彼はその膨大な経験や知識に慢心することなく、常に新しいことにチャレンジし続けている。たとえば、−20度の環境で寝袋なしで夜を過ごしてみたり、標高2000メートルのスキー場のバックカントリーでキャンプをしてみたりと、自らハードな縛りを課し、未知の環境に挑戦する。その探究心と向上心が、彼の動画をさらに魅力的なものにしている。

以前、ヒロシ氏をはじめとする日本のお笑い芸人のキャンプ動画を見ていた時期があったが、Luke氏の動画を見てしまった今となっては、とても見ていられないだろう。整備されたキャンプ場で、快適なテントの中に身を置き、捕食者に襲われる心配もなく、量販店で買った最新のキャンプ道具を駆使して料理を作り、お酒を飲みながら優雅に過ごす。もちろん、それは娯楽としてのキャンプなのだから、間違いではないし、それが正解なのだ。

しかし、Luke氏の動画を見た後では、それは「自然と一体となって生きている」のではなく、あくまで「文明の暮らし」を自然っぽい環境の中で再現しているだけに過ぎない、ということがはっきりと分かる。これまで漠然と感じていた違和感の正体が、Luke氏の動画を通じてようやく言語化できたのだ。

…と偉そうに言いながら、自分はまともなキャンプを一度もしたことがない。日本の真冬のキャンプですら音を上げるだろうし、アラスカなんてもってのほかだ。だからこそ、Luke氏のチャンネル登録者が1000万人以上もいるのは納得できる。彼の動画は、極限環境でのサバイバルを、過酷な体験を一切せずに疑似体験できるからだ。寒さも、疲労も、飢えも感じることなく、「もし自分がこんな環境にいたら」と想像しながら楽しめる。

それこそが、多くの人を惹きつける理由なのだろう。