毎日ブログを書いていた時期がある。結構な長文で、ブログランキングにも参加してそこそこ上位にあがることもあった。楽しくてやっていたことだけれど、文章の良し悪し以上にとりあげたテーマ、他のブロガーとの交流や毎日更新し続けることのほうがランキングアップには効果的だとか、そんなこともその頃に学んだ。
一定量の文章を毎日書くのにはそれなりに時間がかかる。私は飽きっぽいし、書けば満足してしまうので、推敲することもなく大抵は最後の「。」まで書き終わったら見直しをすることもなく、そのままアップした。だから毎日書き続けたからといって大して文章はうまくならない。
書き始めるときには大抵オチを決めているのに、着地点は全然変わってしまうこともよくあった。でもまあそれはそれだし、「おおっ、こんなところに来ちゃった。それもまたよし!」と楽しんでいた。書きながら考えて、考えっぱなしで放り投げる。インターネット上でためらいもなくそれができたのは、のどかな時代だったのかもしれない。
それでも、ちょっと「政治的な」(いや、たいして政治的でもない)ことを書いた時には、普段知り合いしか読んでいないと思うブログにも「通りすがり」からの嫌味なコメントがついた。いまだにあれは知り合いだろうと思っているけれど、もしかすると本当に通りすがりで、ある種の言葉をサーチして気に入らないブログにコメントしていく趣味の人だった可能性もなくはないな、と今は思う。
ともあれ、そういうささくれのような悪意コメントも、書き捨て上等な人間の勢いをちょっとだけ削ぐ力はある。そしてSNS全盛の今、そういった面倒なコメントに対応する元気は全くなくなってしまい、はじめから誰からもつっこまれないようなことを書くことが前提になってしまった。
配慮するのとビビるのは違う。私の場合はビビった。そもそも、基本的にそこまで配慮が欠けているほうではないと思う(思いたい)。それでもあらさがしのようなことをする人はいるし、なんなら自分自身が全く他意のないコメントに勝手に傷ついたりする。さすがにわざわざ「傷つきました」なんて書きにはいかないが、そういう人のことまで想像しはじめるともはや書けることなんて何もない気がしてくる。
ブログからSNSに移り、より短く、主張がはっきりしないがそれなりに口当たりがよくてちょっと考えさせる、みたいな言葉ばかり書いていたら、はっきりと「書く筋力」が衰えたと思った。息をするように書く、軽やかに書くということがすっかりできなくなった。
私は子供の頃から絵を描き続けていたけれど、10年程ぽっかりと描かなかった時期がある。大学に入った頃から、最初の会社を5年勤めて辞めるまでの間、人に頼まれたり仕事上で絵を描くことはあっても、趣味で描くことはほとんどなかった。でも自分の中では、もっとも手が動いている、息をするように線をひけたイメージがずっと残っていた。
最初の会社をやめて、ゲーム会社に勤めたとき、ポートフォリオにいれた高校生の頃の絵をもう描けなくなっている自分に気付いて愕然とした。頭の中で描く線に手が全くついていかない。先輩社員の絵をみて「これなら描ける」と思うのに、全く描けない。
セルフイメージが勝手に高くなっていたのはもちろんある。あるけど、それ以上に本当に手が動かなくなった。お絵かき筋力が落ちた。結局それを取り戻すのに、ブランク分の10年では足りなかった気がする。10代の10年と、30代の10年が同じはずもない。
ブログやいわゆる「ZINE」を書かなくなってしばらくしてから、思うところがあってライティングゼミに入った。あらためて筋力が落ちたなあと思った。いや、タイピング速度とか、だらだらしたことを書くことはできる。速さや持久力の問題ではないから、落ちたのは筋力ではないかもしれない。
自分が考えていることを文章に直結させることができなくなっていた。これはむしろ脳内のイメージ通りの線がひけない感じに似ている。まずイメージがはっきりうかばないし、うかんでも「いやあこれじゃないでしょ」と線にすること自体がためらわれる、そんな感じ。
一方で、言いたいこと、考えることがなくなったわけではない。むしろ増えている。それが大事な事だとか、人に役立つかどうかは関係なく、思いばかりは無駄に増えていく。でも、人と会ってしゃべる時でさえ、相手がききたくない話や興味がない話は避けて話題を選ぶので、思いはたまる一方だ。
日記帳ってものがあった。多分、ひきだしの日記帳に書けばいいのだ。でも私は誰にも見せない前提で書くときさえ恰好をつけるし、手書きだとまず物理的な意味での筋力がたりなくて思いを垂れ流すのは面倒すぎる。
そういうゴチャゴチャした状態の今、いいところに「しずかなインターネット」の存在を知った。ここなら、書き捨ての文章をネットに書くリハビリができるんじゃないか。そう思ってからも、アカウントをつくってから1か月以上放置してしまった。さきほどふと書きたい思いにがわいて、久しぶりに書き始めたら、案の定あちこちに寄り道したこんなのが書けた。
とりあえずはこれでよし。見直さないし、大した事も書いていない。でも久しぶりに「思ったことをそのまま書く」に近い感じだった。とりあえずはこれでよしだ。タイトルも最初に書いてしまったけど、直さない。