エルンスト・アメジスタはどうやら現在、人生の転換期に居るらしい。彼は今、3人の男女と学食を共にし談笑していた。
そのうちの一人、エルンストの一つ上の従姉であるジュリア・アメジスタ。彼は敬愛と親しみを込めて姉さまと呼んでいる。そんな彼女を追うように同じ学園に入学したのも束の間、久々に会った彼女は見知らぬ男女に傾倒していたのだ。
昼食を4人で食べるようになって少し経ったが、女の方は特に問題は無いだろう。同じクラスで寮も同室だったらしい。少々羨ましいがこの学校は女子寮と男子寮で分かれているので仕方がないとも言える。
問題はこの目の前に居るいけすかない男だ。
始めは疑念。何をどうしたらあの飽き性な彼女に半年近くも興味を持たせ続けられたのだろうか。目的は。どうして一緒のタイミングで入学して自分が守ってやれなかっただろう。何故自分は彼女より一つ下だというのだ。
久々に会えたというのに、そんなことを考えてばかりだった。2人が並んで歩いている姿を見かけ、心の内から憎悪が湧いてきたのも仕方のないことだろう。
当の本人達は「そういうものではない」と言っていたが、今そうだとしてもこの先どうなるかは分かるまい。今まで彼女の一番近くに居たのは自分なのだ、奴よりも、そして本人よりも多くのことを分かっているつもりである。そしてあのジュリアのことだ、気付かぬうちに外堀を埋められ丸め込まれて婚約することになってしまうのも時間の問題だ。
何故彼がそう断言できるのかというと、自分もそのつもりだったからだ。これは実際にそうならない限り本人に言うつもりは無いのだが。
まあ、男の話に戻ろう。その男の名はユリウス。ジュリアが言うには「面白い」「良い顔してくれる」らしいのだがエルンストにとってはたとえあのお綺麗な外皮に何が詰まっていようが結局はただの馬の骨でしかない。
つまらない男ではあるが容姿端麗、成績優秀、さらに彼女と同じ生徒会となればジュリアの方から興味を持ってもおかしくない、とは、思う。背は自分の方が僅かに高い気がするし話を聞く限り運動も苦手なようだが。
そして彼女に毎日のように話しかけられて好きにならないなんてありえない。嬉しくならない筈は無い。
なのに。
それなのに。
何故そんなに「自分、困ってます」と言わんばかりの顔をしているのだ。そう簡単にあしらうな。可哀想だろう。そして何故ジュリアも嬉しそうな顔をしているんだ?まったく意味が分からない。何故なんだ。
…もはやこの際付き合ってる・付き合っていないは関係ないのだ。自分よりも彼女に近しい男が居るというのがエルンストには許せなかった。これは二人きりでじっくりと『お話し』をして色々と聞き出さなければいけないだろう。
場合によっては、先輩といえど容赦はできまい。彼女は、ジュリアは自分が守らなければならないのだ。
彼は憎むべき相手の、まるで虹を溶かしたようなオパールの瞳を意味もなく見つめ、何を考えているか互いに分からぬままにこりと笑った。
さて、そのためにはさらに彼らに近づかないといけない。まずは彼らと同じ生徒会に入るところからだ。首を洗って待っていることだな。そう決意したところで昼食も済ませ、誰からともなく解散し各々中庭から自分の教室へ戻っていった。
────この時のエルンストは、まだ知らない。真に警戒すべきは■■■だったことも。守るつもりだった本人にぶん殴られる日が来ることも。この先自分がどうなるのかも。
気付く余地もなかった。