2018-10-05 22:37:13
たぶん、ずっと忘れられない特別なクリスマスケーキの話。
「もうクリスマスケーキの予約始まってたから選んでよ、なくなっちゃうから予約しよ〜!」
家族に言われて毎年恒例の、渋谷で受け取れるケーキの一覧表を眺める。今年はどれがいいだろう。これも綺麗これもかわいい、わあこれは雪の結晶がささってる。……そうか、もうクリスマスケーキを選ぶ時期なんだ。休みを合わせて、かわいい特別なケーキなら予約を入れる時期なんだ。もう一年も経つんだね。おおきな雪の結晶がかわいいケーキ、ずっとロック画面にしてたのはついこの前までの話だったのに。
12月9日。少し早めの、はじめてのお泊まりでクリスマスデートだった。当たり前だけど、9日はクリスマスケーキを買うにはまだ早くて、どこのお店も早いところで20日くらいからしか受け取れない。 もちろん、大手チェーンなんかには早めのクリスマス会用のスタンダードな所謂「クリスマスケーキ!」って感じのいちごショートが並ぶのかもしれない。でも、地方から出てきて、オシャレでキラキラかわいいものが大好きな彼女に、わたしは出来るだけ素敵で非日常なものを用意したかった。
行くのは六本木。これも、「ミッドタウンのイルミネーションは毎年すごい」「ヒルズにはクリスマスマーケットが出るし」そんなクリスマスデートっぽいロマンチックで特別な理由だった。 話を聞いて行ってみたい見てみたいとはしゃぐ彼女に、六本木ならきっとオシャレなケーキが買えるだろうとわたしは張り切ってしまったのだ。調べてわかった、その近辺で買えるその年のクリスマスケーキの中で「カフェクレープ」さんのクリスマスケーキが一番かわいくて二人が気に入った。 銀河みたいな青や紫、赤のグラデーションのベリーのミルクレープの上に、大きな白い雪の結晶のかたちのレアチーズケーキが乗っている。周りにはシルバーのアラザンが散りばめられて。夢みたいなケーキだった。
「わたしこれが食べてみたいな」
彼女の言葉が嬉しくて、六本木ヒルズに問い合わせる。しかし入っている店舗のクリスマスケーキはやはり一括で受け取り会場を用意して、23日から行うようだった。 仕方ないかとあきらめたところで、ネットでその昨年は10日くらいからクリスマスケーキを出していた店舗があったという記事を見つける。それならば、とカフェクレープさんに直接問い合わせてみることにした。 代表番号にかけて、丁寧に対応を頂いて、恐らくケーキを出すこと自体は可能だが材料の準備などが間に合うのかわからない。確約が出来ないからと、担当の方に伝えてもらえることになって。少し時間を開けて今度は担当の方が丁寧に話を聞いてくださって。「特別な日のお手伝いを」と快諾してくださった。落ち着いた、物腰の柔らかい男性の声だったのをいまでも鮮明に覚えている。
そうして、わたしたちは誰よりも早い夢みたいに特別なクリスマスケーキを食べることが出来たんだ。ミッドタウンが寒くてスープ屋さんでご飯を食べてしまったから、半分は朝食になってしまったけど、おいしくてうれしくて、二人で残さず食べたんだ。きっとずっと忘れない思い出になるって、思ってたし、いまも思ってるよ。 未練があるわけじゃない。ずっと覚えてるわけじゃない。でもこうやって、何かの拍子にまた何度も思い返して、また何度も泣くんだろう。いつか、笑い話すら通り過ぎて忘れる日はくるのかな。そんな日が、くるのかな。