ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 感想メモ

shiwoni
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3月末で取り壊しが決定している大洋映画劇場(福岡県博多区中洲)の一番大きなスクリーンで初めてノッキン・オン・ヘブンズ・ドアを観てきた記録。filmarks 90's企画に感謝!

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・銃を向けられた2人が空を掻くように手を握り合ったとこでボロッボロ泣いてしまった。

・有名作なのでおぼろげにラストを知っていたことに、今回は救われました。何も知らずに見ていたら確実に「寄り道してる余裕ある!?ほんとに大丈夫!!?」って気が気じゃなかったと思う。

・振り返れば、最初のテキーラのシーンだけで既に一度、映画としての美しさが完結していたように見える。そのあとの時間は全て、あの会話の上に積み上がっていくものだった。

・最後に突然現れたギャングのボスの、それこそ天国とか、物語の外から不意に訪れて静かにゴールを指し示す役割を携えてきたかのような異質よ。ああ、もう終わるんだという予感や宣告そのものが人の形を取って現れたかのようだった。あれはもう、あちら側の存在だった。

・どうあれ彼らは法を犯しているので、警察は2人を許す立場にも見守る存在にもなり得ない。だから、許したという訳ではないけど、ここまでのことを最後に真っさらに戻して送り出す、何処かからの使者の役はあの人しかいなかったんだろう。

・ギャングの金でガソリンスタンドと銀行強盗の分を返して、残りをポストに投げ込んで、最後にそのギャングに海へと示されて。ぐるりと回って全てを手放した2人は、結局またテキーラ一つを片手に辿り着く。

・だいぶ前に観た、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「僕が星になるまえに」のことを思い出したりもしました。マーチンとルディの旅は、多少の差はあれ、2人とも断ち切られるようにして終わりを迎えるという約束の元に成り立っていたんだと思う。互いに同情がないから、当たり前のように手を取れた。

・どんな人間にも死は訪れるし、それは明日でも次の瞬間であるかもしれない。それはそうなんだけど、やっぱり、来週来月来年を生きる可能性を持つ者とほぼ絶望的に持たざる者とで、どんなに願っても努力しても、対等であることはとてつもなく難しい。

・だからと言って、死に直面した者同士なら簡単だという訳でもない。マーチンとルディは、最後まで身の上話をほとんどせず、彼らの人生や生活のことは(少なくとも我々には)大して分からないままだった。そのことが余計に、彼らを対等のままにしていたように見える。

・マーチンのお母さんのこと考えると、あの短い時間にあんまりにもあんまりなように感じるけど、我々の見たものなど彼女の人生のほんの一部に過ぎない訳で。ただ、あのとき必死にマーチンに寄り添ったルディの姿が何かになっていればと、都合の良い夢を見てる。

・ルディには何かを残したい誰かはいなかったのかもしれないし、いても、振り返りたくはなかったのかもしれない。

・彼らはただ、終焉と共に巡り来た縁に乗り込んで、それだけ握り締めて走ることだけを決めた。それ自体は逃避でもあり、結末を選び取ったと言えるのは本当に最後の場所で振り返った時だけなのだろう、とも思うのだけど。

・ところで私、この作品のビジュアルとしてはポスターとかでよく見る咥えタバコの2人の姿しか知らなくて、実際のルディの印象がそれと全然違ったのでびっくりしたのでした。もっと擦れ切った2人組の旅なんだと思ってた。

・ルディの柔らかい表情がずっと印象的だった。救急車の中でふっと緩んだ顔見て泣けた。気弱なはずの彼が、怖くないと、もらった強がりを返すように告げる。何度も何度も必死に介抱した彼の発作を、最後にはただ、隣で見送る。

・海を見たかったのも、怖かったのも、連れ出してほしかったのも。寂しくなりたくなかったのも。

・今から入ろうとする扉をノックするっていうのは、私には多少なり能動的な行動に思える。これは持ってる言葉の感覚とか、死の付随するお迎えのイメージによるものなのかもしれないけど。2人の旅路そのものがそれだった、という大前提で、最後のシーンは、全て受け入れて待つばかりのマーチンの代わりに、ルディがそっと扉をノックしていた時間にも見えた。

・ならばルディの扉は、向こう側からマーチンが開いてくれたらいい。この先も寂しくないように、彼らは海を目指したのだから。

・ところで、「悪さして隠して逃げて追われて、今にもバレるか捕まるかという悪さした側のハラハラ追体験」が大の苦手な私、途中「ぎぇぇーー!早く逃げきるかいっそ捕まるかどっちかにして!」っていう点だけでも十分のたうち回っていたのですが、そんな状態でも一時停止不可で強制的にラストまで連れてってくれるから映画館って大好きだ。最後まで見てこそ意味があるんだと分かっていても、家で配信見てると反射的に止めてしまうことがある。私をスクリーン前に軟禁してくれ。

・よく話に聞いて知った気になっている作品も、自分の体験にするまではまだ自分にとって何者でもないのだ、ということを久々にまた思い知りました。良い映画体験だった。大洋劇場で見る機会を得ることができて本当に良かったです。

@shiwoni
しをにです。感想メモを残す場所として試運転中。