映画「ゴールデンカムイ」(2024.1.19公開)が驚愕に驚愕と驚愕を重ねてもまだ足りないほど面白かったことの記録。びっくりした。ものすごくびっくりしてる。これはどう言語化したらいいんだろう。びっくりしてる、というのが一番近い感想。びっくりしたよ。こういう感情になるの!?っていう驚き。
最初はどうしても、どーーしても、衣装の彩度の高さが気になって気になって内心で呻いたものの、それをねじ伏せるだけの圧倒的な、あの、あれ、あれはなんて言ったらいいんだろう。あの幕の向こう側に一貫する説得力。
誰も、何も、はみ出してない感じ。向こう側ではちぐはぐではない感じ。同じビジョンを全てのパーツが共有してるような、そしてそのビジョンってたぶん原作そのものでもあるんだろうと感じさせる、そういうタイプの繊細さ。
各キャラ原作そのものだという感想をよく見かけたけど、私の場合、例えば「玉木宏だ!」と「鶴見中尉だ!」が、「舘ひろしだ!」と「土方さんだ!」が、「矢本くんだ!」と「白石だー!?」がずっと同時にやって来た。誰も彼もよく知ってる俳優さんだし、そう見えるんだけど、それがノイズにならなかった。なぜか。なぜだろ。不思議。
映像がすごいとかアクションがすごいとかキャラがすごいとか原作どおりとか、色んな賞賛の言葉がありえる一方で、その一つ一つを取り上げると、最高級!No. 1!って訳ではないと思った。あくまで私の感触で。
ただ、それらの実際にいま持ち得る手札を使って最大限のシーンを作るぞ、それを繋げて作り得る最良の形にするぞっていう、根気とか誠意とかが全体に均一に行き渡ってる気がした。だから、見る目によってはポイントごとに粗が見えたとしても、根底が一貫して丁寧だと感じる。
変に飛び出すところがなくビジョンを共有したシーンを丁寧に一つずつ積んでいく、ということは、序盤にふむふむと思いつつただ見ていたものが、シーンが進むごとに着実に着実に均等に堅牢に積み上がっていって、最後にふと気づくとそうして見ていた自分が完全に固く築き上げられた力強い何かの上、どこか高い場所に立ってるってことで。
どこのシーンから急に上がったとかではなく、着実な積み上げの先。それがたった2時間強で……えっほんとに2時間ちょいしか経ってなかった?4時間くらいの密度じゃなかった?
杉元が、単体で、静止画で、まさに杉元!っていうほど似てる訳ではないと思うのに、アシリパさんと、白石と、並んで喋って動いて、彼らとの間合いが浮かび上がったところに私の知ってる杉元がいた、って感覚があって、なんか、すごい、新体験だこれ。似てるとか似てないとかいう話ではなくて。
杉元という男の可愛げと怖さを両方見せる、それが何かをすることで見せるというより、一貫して間合いで見せてる印象があった。過剰なキャラ付けを演技に足し算で見せようとするんじゃなくて、抜き方とか、突然すとんと削ぎ落とした感じとか、むしろ引き算で、ある瞬間に杉元佐一の存在が濃くなるような。
アシリパさんもそう。真顔や、ちょっとだけ顔を顰めるような静かな表情変化がすごく印象的だった。2人がそれぞれそうだから、並ぶと余計に、そこにしかしない間合いがふっと見えて侵し難く見える。それを一作目のたった2時間の中で、確実な積み上げで見せることがすごいし、見えにくい地道な努力の末だと感じさせる。
それでいてあの独特の変顔が、ちっとも浮かずに、わざとらしくならずに、だからと言って誤魔化しもなく、違和感なく同じ世界線に溶け込んでくるの、これが実は一番のミラクルだったのでは?あの手のシーンは、確実に浮くものだと思ってた。
漫画的なコメディパートを実写やアニメに落とし込むのには、どんな作品でもセンスが要求されるとこだと思う。音と動きが加わることで仰々しく白けたものになることが多い、と私自身は感じるので、普段はカットされればされるほど安心するんだけど、この映画は上手かったなぁ。ほんとに上手かった。
まず杉元アシリパさんに絞るけど、子グマのことも、オソマやリスやカワウソの頭のとこも、あの顔芸が浮かない上に、いかにも持ちネタとしてバーンと見せるんじゃなくて、間合いでふふって笑えるシーンに仕上げてあるのがめちゃくちゃ良かった。実際、くすくすと笑い声が聞こえた。
そして白石、白石ですよ。白石がすごかった。私は実写ちはやふるの時から矢本くん大贔屓の身で、実のところ普段から役者さん本人のことまで「にくまんくん」と呼んでるので名前をしょっちゅう忘れるのですが(ごめんなさい)、にくまんくんすごいな!?にくまんくん、白石じゃん!!??ってずっと思ってた。
さっきのコメディが浮く問題、愛してやまない実写ちはやふるでも相当にあって、愛しているからゆえに該当箇所は記憶からごっそり消してるんですけど、にくまんくんだけは違った。作品からもキャラからもはみ出さずに安定してた。これもう本人の力なんだと思う。あと私の好み。
劇場で笑い声が聞こえたのも、圧倒的に白石関係だった。他のキャラと同じで、原作の白石とそっくり!っていうのとはまた違う。違う白石ではある。でも白石なの。なんて説明したらいいか分からない。あの身体も精神もくねくねぐにゃぐにゃどたばたしながら、したたかでしぶとい存在。
杉元が、白石と川に落ちてドタバタするとこ、ちゃんと対白石にチューニングされたテンションだったのも良かったー。火を起こすドタバタだけ見せたのちに、すぱっと切って次のシーンに繋げたのも個人的には良かった。一本の映画として、白石が白石のポジションをしっかり務めてるのが分かった。
最後の最後のとこ、改めて2人の戦いが始まったのだ!プラス、白石!って感じの見せ方だったのが本当に無茶苦茶好きでした。2人+1人であり、同時にうやむやに3人であり、って感じがあまりにも白石。
ところで杉元、帽子の角度とかで原作の杉元に近く見えるように工夫してるなーと思ったので、風呂だのなんだので帽子脱いだ途端にとんでもない美男子が出てきて「誰や!?」ってなりませんでした?私はなった。でもそういうとこも、なんだか杉元佐一っぽさある(??)
鶴見中尉。いやぁーーーーーーーー。玉木宏、玉木宏ではありながら、鶴見中尉だった。たぶん声が玉木宏だから玉木宏だなぁとは常に思ってるんだけど、最初からガツガツ存在感を放つというより、終盤に向けてじわじわじわじわ異様さをこぼしていく見せ方、上手かったし凄かった。
劇中に複数並べる必要があった対峙や戦闘の見せ方として、最後に鶴見中尉のあの辺が来るように持ってきたのも、一本の映画として上手かった。概ね、原作通りの並び方ではあるんだろうけど、原作が手元になくて記憶おぼろげだったのもあって、なるほどここが締めになるのか!って思った。あの落馬ダッシュは素晴らしかった。
月島軍曹がまた、むちゃくちゃに良くて、あらゆる角度あらゆる動きがとにかく良くて、喋ったり動いたりするたびにうおお!ってなってた。空気、というか頑強な圧?みたいなものを常にまとってた。月島基軍曹が憑依してそこにいるみたいだった。それでいて存在が飛び出してない。溶け込む圧。なにそれ。
馬車に引き摺られる杉元をアシリパさんが引っ張り上げるシーン、2人の互いへのあり方が凝縮されていて物凄く良かったんですけど、それと同時に、背後で振り落とされた月島の姿が。逆にこの先の未来で彼の手を掴んで引きずり上げることになる別の存在を思い起こさせるとこあって、二重に熱かった。まぁここは多少の幻覚を含んでいます。
尾形。漫画初登場時のなんとも言えないモブ感まで忠実に再現していて、徹底……!もっと盛りたくなりそうなところ、狙撃のワンカットに存在感を凝縮しつつ、流れは徹底して原作どおり。彼を見せるのは今ここではないという、もはやこれは自制の域。だって尾形だよ。続編の存在への信頼でもある。
あの、すっごい見覚えのあるあの構え、あれを、あのコマだー!って分かるほどしっかりと見せて、でもやっぱり演出の流れから飛び出してもはみ出してもなくて、短時間で存在感のあるアクション、知ってる人間だけ見える因縁の幻覚、からの、スッと躊躇いのない決着、いやーこの自制のバランスよ……。
谷垣に関しては、流石にまだ何も始まってないも同然なんだけど、大谷亮平のマイルドな声や物腰をここからどう見せる気なのか気になるところ。谷垣も内側の感性が柔らかい人間だから、外側を敢えて寄せてかなくてもいいのかもと思いつつ。続きが早く見たい。続きの実在感が濃すぎて来月くらいに来そう(来ない)
土方さんはとにかくシルエットが素晴らしかった。どこからどう見ても映える映える。好みを言うなら、声がもう少し老いて掠れていたら尚良かった。兼定奪還ここだったっけ?と思ったら、やっぱりエピソード入れ替えてますよね。勢力乱立を見せるエピソードの組み換えがさりげなくて上手い。原作の序盤の物語としての面白さを、肝の部分でばしっと見せてきた。
以上のとおりどのキャラも、そっくりという訳ではないのに原作のキャラに太く繋がってる、という感想になるんですけど、1点だけ、それを完全に突き抜けて、そっくりというか本人???ってなったのが二階堂兄弟。本物???本物の二階堂たちいなかった???何がどうやったら本物を生成できるの???
本物の二階堂、いましたよね???
彼に関しては、え、うそ、本物おる…以上でも以下でもなかった…本物の二階堂がいました。
うーん?と思ったのは、やっぱり二百三高地。衣装の彩度が目に引っかかるのに加えて、凄惨なばかりの戦場にハリウッドアクションスターが1人紛れ込んだみたいなシーンに見えたので、まぁそういう方向性だったのかなーという感想でした。やられ役たる彼らもまた、あっけなく消えゆく命の一つ一つであることが頭を掠めたので。これは好みと理想の違いかと。冒頭がそれだったから、そこからの巻き返しが嬉しかったのもある。
同じ映像をモノクロで見たらまた印象が違ったかも、とも思いました。昔見た他の戦争映画のことを思い返すと、あそこまでやったら逆に続きに入り込めない人も出てくるだろうとも。見せたい物語に繋ぐためのバランスを考えると、確かになかなか難しい。
尺とテンポの問題かなぁと思いつつ、子熊を送り返す儀式と新しいアイヌの女のくだりは残して欲しかった。ただ、テーマがごちゃごちゃにならないように次回作の方にまとめる可能性もあるのでは、と身内に言われて、確かに!と思い直しました。答え合わせはまだ先のことながら、期待。当然のように、あと何作も続くのだろうと思って喋っています。
全体として驚くほど原作どおりで、細部をさり気なく再構成していてめちゃくちゃ上手かったと思う。派手な組み換えじゃないのが余計に、脚本や演出の技術によるものなんだろうなと。
クマの巣穴の中の杉元視点、音と狭い視界で見せる演出が映画的、ホラー的で面白かった。レイティングを上げない工夫としても上手い、という身内の感想に、なるほどそれもあるか!と思ったり。モロに見せたら避けようのないスプラッタだし、下手な伏せ方では白けるだろうし。あと、CGは使えば使うほど費用がかさむって私の愛する映画監督が言っていたので、クマ本体を写すシーンを減らす意味でも、何重にも良いテクニックなのかもと思いました。
まとめ。最初から最後まで、杉元が見るアシリパさん、アシリパさんが見る杉元、その断片を我々に何度も焼き付けつつ、何度でも真正面から向き合って手を取り合ってく2人を見せるぞ、という意思が貫かれていたのがやっぱり一番良かった。2人で立つカットがどれもこれも本当に良かった。
原作の流れを徹底的になぞっているようなので、これ、一体どこまでやるとか、どこで映画的にまとめ上げるとか、そういう計画があるのか単純な疑問は残るところ。原作のテンポを死守!その上でやれるとこまでをやるぞ!あとは知らん!という強固な意志による無計画だとしたら、それはそれで良い。キリの良いところまで辿り着かなかったとしても、まず1本、魂がこめて作り上げられたものを確かに受け取りました。
いやー良いもの見ました。感想メモ、一旦おしまい。