2001年宇宙の旅 感想

shiwoni
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公開:2026/2/14

人生の端々で摂取していたのであろう、そしてそのまま散り散りに忘れ去ったのであろう数々の有名な要素を、一つもはっきり思い出さないまま、なんか異様で偉大な作品らしい、という前情報だけ抱えて、午前十時の映画祭にて初めての鑑賞、初めての旅へ。

結果、すごかった。

すっごかった。なんだこれは。これが、その、あの、というのを引いても足しても、すげーーーーーーーな!?という感想がまず飛び出してくる。

尺もテンポもクソ喰らえじゃん。ミリもこっちの顔色伺ってない。観てる側に合わせる気などない。自由自在の伸び縮み。残り時間とか今が全体の何合目とか何一つ関係ない。

ほんとにそう思って作られたのかは知らないけれど、そう感じられたということがすでに異様な体験。制御不能の類ではなく、作品の内にはむしろ確信が満ちている。

永久に終わらんのでは!?というシーンのあとに剛速でぶったぎられて時空がかっ飛んだりする。あんなにもじゃぶじゃぶ尺使った後に光の速度で置き去りにされ、そこからまた無限回廊に放り込まれる。

容赦なく荘厳なクラシックが迫るかと思えば、突然長い無音に放り込まれる。そのたびに、息を詰めてじっと耐える観客たち全員の協力で成り立つ沈黙の空間を体験した。

そもそもの冒頭、まず映画が始まらないんじゃないかとヒヤヒヤしたところからの猿の惑星。人類の夜明け、からまさか人類の日没までねっとりやっていくってこと?と焦ったけど、流石にそれはなかった。ありきたりの夜がひとつ明けたところに忽然と現れた黒い板が世界も映画の空気も変えた。ひやりと温度が失せる類の異様。正直私にはあれがモバイルバッテリーに見えたので(似たのを持ってる)、なんかのCMみたいだとも思った。でもそれはたぶん印象が逆なんだ。そういえば、2001年のタイトルがマルイのロゴみたいだなとも思ったけど、あれゼロじゃなくてアルファベットのOなんですね。なんですか?どういうこと?

後から、あの黒い物体はモノリスだよと教わり、モノリス!聞いたことある!名前いつ言った!?と聞いたら、言ってないんじゃない?との返事で仰け反った訳です。そんなことあんの!?一応そのあと、小説の説明も受けました。アーサー・C・クラークって名前もめっちゃ聞いたことある……そのあとチャーリーとチョコレート工場の該当シーン見せられたけど、これもめちゃくちゃ見たやつ……思い出さなかったの逆にすごい。

モノリスもHALも聞いたことはあったのに、それだけだった。その先は知らない世界だった。

一貫して、この映画何年代の制作って言った!?って思ってた気がする。月面到着もしていない時代に、どうやってこれがこうなった。キューブリックの前にキューブリックはいなかったんですよね。何からこれが生まれたの。ワンカットワンカットが額縁に飾られる絵画のようで、それをずらずらと、スライムのように伸びた時間の壁に並べられた、動く美術館のような空間だった。

ただの赤いランプのアップが、静寂が、こんな緊迫を生み出す。無音の中で真っ逆さまに吸い込まれていくいっそ滑稽なほど鮮やかな黄色の恐怖。そう、恐怖だよ。ゼロ・グラビティの恐怖。無の時間が長くて果てが見えない。全てが吸い込まれていく。有無を言わささぬ無限の空洞の存在感。

白い宇宙船と宇宙ポッドが、抱えた黄色の人型挟んでただ対峙する、あんな無を眺める時間、劇場で味わうもんだろうか。

ポッドで真っ直ぐに追いかけていく切実さから、生きてるんじゃないかと思ってたんだよ。アームで引っ掛けても掴み返してこないのが分かった時まで。或いはあんなにも必死に捕まえた姿をあっさり手放し直したその時まで。一度も彼の生死が台詞にならなかったな。すごいな。

HALの破壊シーンも怖かった。人工知能の命乞い。そして、一つずつ的確に淡々と外されていくメモリー。つまり脳の破壊。こんな絵画的に静的に見せられる概念か!?絵面の格が違う。

最後の客間のシーンは完全に間合いがホラーでした。遮蔽された視界の一歩向こうに見えてしまうかもしれないもの。ここに来て何のジャンル見せられてるんだと思った。だってあれ、本人の視点になれば、今度は自分の頭のメモリーをぐちゃぐちゃにされたのか、ってよぎるとこでもあるよ。脳みその中の無限ってこういうものじゃないの。HALが最後に見た原初の幻覚も同じじゃないの。

その手前のゲーミングエレクトリカルパレードみたいなやつは、このまま私も家に帰れんのではないかと思わせる異様さがあり、シンプルに目が死にそうだったので途中から薄目で見ました。最後、バグったモニターの色してた。

ちなみにストーリーも空飛ぶモバイルバッテリーの目的も正直何にも理解はしていなくて、こわー!すごーー!こわーーー!って思ってるうちに突然終わって、はーーーーーー!?ってなったのでした。一瞬で人格破壊と生命退行を浴びたのかと思った。The Endの文字で、やかましいわ!って思った心理をどう説明すればいいのだろう。好き勝手にやりきりおってー!みたいな。もう本当に清々しく、まさしく光の速さで横切って去って行かれた。高次存在には時間の概念すらも同時並行的に感知できるっていう、私の愛する某SF映画のことも思い出したし、もの言わぬ真っ黒の板の佇まいに、三つの三角錐、三角兄弟の姿を思い出したりもした。

しかもそこからのエンドロールがエンドロールじゃなく、続いたのは暗闇クラシックコンサートで、再上映の権利問題で文字全部墨塗りになったとかではなく???と困惑しながら息を潜めてたら、音楽が終わっても尚も無音の暗闇が続いて、帰っていいのかもわからない困惑のシアターと化していた気がする。見知らぬ方々、同じ場に居合わせてこの空気を共有してくれてありがとう。

真ん中をスコンとすっ飛ばしてしまったのでここで言及するんですが、月基地前後での、なんとか評議会を代表する博士周りでの小洒落た応酬の全てが、終わって振り返れば宇宙の塵にも等しく高次存在にとってはどうでもいい範囲のことに見えて、それも物凄い。だって最後に博士がモノリスにそっと触れるの、高次存在からすれば猿たちが周りを囲んで騒いで触ったりしてたのとほぼ同じなのでは。ちょっとだけ前に進んだかなーどうかなーくらいのアレなのでは。そんな怪しい物体の前でのんきに記念撮影してる場合か。でもハムとかチキンとか、伝染病とか情報操作とか、そんな一つ一つがその時点の人類のリアルであって、猿にとっての水場の存続と同じなのであって。

あのキーン音は劇場自慢のスピーカーの容赦がなくて、私も耳塞ぎました。あの人ちゃんと後から娘ちゃんの誕生日お祝いできたのかな。

ところで私はちゃんと上映前の説明を読んでなかったようで、HALが2人の唇読んでるところで突然「休憩中」の文字が出てきてぶったまげたのを思い出として記録しておきます。出てきてと言うか、その文字自体はHALのモニター表示だとばかり思ったので、そこで劇場内の明かりがついたことにぶったまげた。7分休憩を把握して、これ幸いとお手洗いに走り、戻ってきたら室内明るいままでクラシック音楽だけがガンガン鳴り始めたの、あれは配給か劇場の演出??何??上映中と同じレベルの音量で音楽は鳴ってるのに画面は真っ白で、いつ始まるのかの説明もなく、あれも何かのバグかと思った。結局音楽が一段落したところで、すっと無音が落ちて、そこから静かに明かりが消えていったのでした。すべてが異様な体験の一つに連なっていく。

HALを疑うなり真っ直ぐに密談を始めてしまう2人は、条件制限密室駆け引きバトルには慣れてなかったんだなぁと言ったら「彼らはスタンド使いではなくアストロノーツだからね」と言われたことも思い出にしておきます。

そういえば、帰宅してWIKIPEDIAなど嗜んでみた結果、モノリスの説明に「最初の3つの自然数の二乗」という言葉が飛び出して、急に博士(*)が喋り出したのかと思って目を剥いたのでした。(*…しをには今ちょうど、博士の愛した数式を読んでいる)

「これは人工物であることを見ている側に視覚的に意識させるためである」で噓ぉって思ったんですけど、あれを見て「これは最初の三つの自然数の二乗だ!人工物だ!」ってなる人が数学者以外にいるんです……?

ちなみに今、手持ちのモバイルバッテリーを計ってきたら、1:4:9にちょっとだけ長さが足りませんでした。なるほどね(?)

@shiwoni
しをにです。感想メモを残す場所として試運転中。