初めての嘘をつくときくちびるはレーズンバターサンドの香り(2024.4.8.毎日歌壇.加藤治郎選)
面接の会場に着くこの場所が青果店ならどんなにいいか(2024年3月31日.春の短歌ファンミーティング.岡野大嗣選)
古本に「桜」という字は記されてあまりにあわいもう散りそうだ(2024年3月23日.北町南風のオールタンカニッポンTHE LIVE)
この街に寂しい人がいるようだココアがいつも売り切れている(2024年3月19日.毎日歌壇.加藤治郎選)
ブレザーは椅子にかけられ思い出はいつも夕焼け色をしていた(2024年3月11日.毎日歌壇.加藤治郎選)
大人へと変わってゆけば蛞蝓のように喉に赤飯は落つ(2024年3月11日.毎日歌壇.水原紫苑選)
新しい本に紅茶を溢したら新雪に新しい足跡(2024年2月26日.毎日歌壇.水原紫苑選)
こ、こ、ろって落ちた消しゴム拾い上げ僕は明日から帰宅部になる(2024年2月19日.毎日歌壇.加藤治郎選)
太き枝切られし幹の明るさよ露わになった乳房のごとし(2024年2月19日.毎日歌壇.水原紫苑選)
春の日の昼寝の夢はあちこちに木香薔薇が咲いていました(2024年2月12日.毎日歌壇.水原紫苑選)
木犀が好きだと君が言ったから焼き尽くされるほどに苦しい(2023年1月15日.毎日歌壇.加藤治郎選)
繋ぐ手を離せば指にぱちぱちとラムネのごとく血は流れゆく(2023年12月4日.毎日歌壇.水原紫苑選)
観覧車を少し見上げてあの時の約束、今も閉じ込めたまま(2023年11月27日.毎日歌壇.加藤治郎選)
水色の便箋に書くもうすぐで消えてしまいそうな言葉を(2023年10月23日.毎日歌壇.加藤治郎選)
青春は遠くなりゆく薄紙をかざした先にうっすら光る(2023年10月9日.毎日歌壇.水原紫苑選)
君の乗る電車が闇に消えてゆき闇と永遠なら同義語だろう(2023年9月12日.毎日歌壇.加藤治郎選)
プール後の授業で子らは居眠りしなんて静かな海なんだろう(2023年NHK短歌9月号)
たましいに硝子を飼っているのです会いたくなるのも悲しくなるのも(2023年8月21日.毎日歌壇.加藤治郎選)
晴天に飛行機雲は線を描き空がこすれる音が聞こえた(2023年7月24日.毎日歌壇.加藤治郎選)
口開けて垂れた花びら舐め取って今もわずかに死に向かう人(2023年7月24日.毎日歌壇.水原紫苑選)
気づかれず背中に乗った花びらのように手を振る改札口で(第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部)
過ぎてゆく電車の風を潮風と思いたかった平日の朝(2023年6月13日.読売歌壇.黒瀬珂瀾選)
君の手が私の背中を撫でたとき透明な栞となるでしょう(2023年6月5日.毎日歌壇.加藤治郎選)
教科書がはらりはらりとめくられて休み時間は小さな渚(2023年5月28日.東京歌壇.東直子選)
琥珀糖で傷ついてしまうくらい私は薄く透明だった(2023年4月10日.毎日歌壇.加藤治郎選)
手をひねりパッと話した両手から落ちてパスタの花が開いた(角川短歌.2023年3月号.小黒世茂選)
5限目の教室で鳴るボールペンきっと誰かの「淋しい」の声(2023年3月20日.毎日歌壇.加藤治郎選)
口づけの途中で笑いすきま風きっと桜を揺らすのでしょう(2023年2月19日.東京歌壇.東直子選)