そっか!夢を書けばいいんだ!と帰り道にきづいたところからのわたしとあなたの夢のはなし。
「朝のカフェは夜みたい。」珈琲を飲もうとしてやめる、をさっきから繰り返してあなたはそう呟く。今日はめずらしく早くに起きたあなたとカフェに来ていた。冬のバンクーバーは7時過ぎだとまだ薄暗くて、住宅街からは散歩にでかけるひとと犬たちがチラホラ。カフェまで近道をしようと思って公園を横切ると、リードをはずした犬がランダムに疾走していた。「あの犬はランダムにはしっているように見えるけど、実はちゃんとした規則があるんだよ。」そう言うあなたはよく犬のことを知っているのに、こどものときに追いかけられた影響で犬はこわくて飼えないらしい。
無事公園を横切ることに成功してまっすぐ歩道をすすみ、右を曲がればそこにカフェがあるはず、と思ったのはどうやら勘違いのようだった。ずいぶん西にいきすぎていたようで、右をみてもカフェの看板どころか家しかみえない。貴重な時間を無駄にしたと思ってため息をつくと同時に、交通整理をしているガードマンがピピッと甲高い笛を吹いた。「まるでわたしのため息を取り締まっているみたい!」元気になってあなたに自慢するけど、あなたはすでにカフェの方へとあるいている。
10分ほど歩きなおしてカフェにつくと、そこには女子高校生とおぼしき学生たちが、おしゃれな制服と11月末にはきっと寒くてしかたがないだろうミニスカートをはいて並んでいた。
「明日の水ダウ観る?」「そんなのもう毎週録画に決まってるわよ」「なんなのそれ」「... え、もしかして録画機能しらないの?」「そこじゃないから」
朝にカフェに来て気分が上がっているのか、いつもより高いトーンではなす彼女たち。彼女たちが笑うと、朝のしずかなカフェに眩しい太陽がさしこむ。爽やかな気分だ。彼女たちのあいだでは、もっぱらテレビバラエティーが今のホットトピックらしい。しかしそんなバラエティーには一切興味がないのか、あなたは真横で話す彼女たちを一瞥してこれ見よがしに眉をひそめ、「この珈琲は熱すぎて飲めない」と言った。なんだ、彼女たちにおこっていたわけじゃなかったのか、と、思ったより穏やかだったあなたに安心する。あなたは猫舌だった。
そのカフェは朝7時から空いている、この辺りではめずらしいお店で、いつも朝から大人気。たぶん、店長が「相手が休む間に働くんだ」という訓示の持ち主で、夜は11時まで珈琲をのむことができる。朝7時から夜の11時。16時間労働か、と思っていたら、壁のすみに貼られた古びたアルバイト募集の紙に小さく「*激務‼」とかかれていた。そんな店長はしごとに厳しいけど、学生にやさしい。大学生は一杯2ドル、中高生は一杯1ドル、小学生以下はタダ、というヘアカットサロンを模したような価格設定で、もしかしてと思ってこの前聞いてみると、実はもともと日本の美容院で働いていたらしい。そう話す店長はどこか自慢そうだった。
それを思い出し、なるほど、やっぱり自分で経営をしてきた経験がこういうところに活かされるのだ、と妙にまた納得したので、店長の話をあなたにも教えてあげる。「こういうのを元職業病って言うんだよ。」結構うまく言えたものだ。しかし、そんなわたしのことば遊びはくだらないといった顔で、あなたは「わるいけど、それは違うの」とこたえる。あなたいわく、この店長が働いていたのは日本の病院で、美容院ではない。バンクーバーで生まれ育ち、6日間だけ日本に滞在した店長にとっては、病院も美容院も同じ音なのだ。
なに?そんなつまらない話?そっちの方がくだらないことば遊びじゃないか!変な憤りが湧き上がってきて、頭のなかで小さなわたしが叫ぶのが聞こえる。さっきまで微笑ましかったキャピキャピした女子高生たちも思えば騒がしいし、だいたい6日間で病院ではたらくなんておかしい。きっと裏ルートだ。そういえば、この店の激務もダメではないか?法律違反じゃないのか?と、あの時自慢気だった店長の微笑みがうらめしく思えてくる。
いかんいかん。何を憤っているんだ。そう我に返り、わたしはこの動揺をあなたにさとられないようにとニッコリ笑ってみる。店長の微笑みをイメージ。16時間労働でも、6日間労働でも良いじゃないか。わたしはハハッと笑って余裕をみせ、珈琲を一口飲んで深く息を吐くと、カフェの外からガードマンの吹くあの甲高い笛のおとが聞こえた。ピピッ。あまりに思いがけないタイミングで思わず、あ!と声に出してあなたを見ると、あなたはなにか言いたげな、茶化すような目で、ピースサインをしていた。