あの人みたいに

オパール
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十年近く、憧れている人がいる。とてもうつくしい人で、透明感のあるたおやかな人。私より三つほど年上の彼女を知ったのは、奇跡に近く、SNSでたまたま見かけたから。画面を通して見る彼女は、いつだってうつくしく、麗しく、私にとってのミューズ。数年、SNSで見かける度に彼女への憧れの気持ちを募らせ、彼女と会ってみたい、その姿を一目みたい、と思いつつも、叶わぬ夢だと分かっていた。

何せ、私は地方在住。東京に行くことは年に一回あるか、ないか。彼女は東京で煌びやかに、都会のビル群の中に居ても輝いていて、まるで有名人を見ている気持ちでいた。画面越しで応援するくらいが身の程に相応しく、彼女が始めたパーソナルスタイリングにも、応募したい気持ちを抑えて眺めるだけにしていた。

そんな、恋心にも似た憧れを拗らせること数年。憧れの彼女が始めた古着屋。そこで服を買い、彼女に存在を認知されてから、度々お店のお世話になるようになった。最初は憧れの人のお店だから、と思って見ていたが、段々その内古着の可愛さに目覚め、今ではすっかり虜に。絶妙に、欲しいものが見つかる。それも思いもよらない、嬉しい誤算で。

基本服に関しては自分で似合う似合わないを判断するし、誰かの意見を求めることもなければ、おすすめされた物を買うこともなかった。けれども、彼女のお店ではおすすめされた物がなんと自分に合うことか。自分ではあまり選ばない色やデザインの物を勧めてもらい、しっくりきたときの感動。自分の可能性が一つ広がる、固定観念が覆される。

実際に会ってお話する彼女自身も、それはもう麗しく、何回会っても未だに想像上の人物ではないかと思うほど、素敵な人だ。硝子のように透き通った外見に、とても穏やかでゆったりと温かい声。笑った顔は芍薬が花開くが如く綻び、見る者を虜にする魅力がある。人に似合う服、素敵な服を選ぶ目は抜きん出ていて、お店に置いてある品はどれも素敵なものばかりだ。

先日、お店のInstagramのストーリーにて黒の革の鞄を見かけ、とても好みですぐに連絡を取った。彼女のお店での幾度目かの一目惚れ。予算はギリギリ、正確に言うと、ほんとうはギリギリアウト。でもずっと財布と少しのコスメを入れて気軽に出かけられる黒の革の鞄が欲しくて探していたため、私の理想にぴったりだった。給料日までの一週間ほど一旦保留にさせてもらい、来る日も来る日もふとした時に鞄が頭を過ぎり、送ってもらった画像を見ては眺めいった。そして、給料日を迎えてすぐ収入を確認し、購入したのである。人間、欲望には抗えない。そして買った後悔よりも買わなかった後悔の方が後を引く、ということを、身をもって体感していたから、収入を見た瞬間迷いは吹き飛んだ。今の私には背伸びをする値段でも、それでも欲しいと思うくらい、どんぴしゃで好みなのだから買うしか選択肢はないのである。

手持ちでも、肩掛けでも持てる程よい長さの肩紐。黒に金縁の、アンティークバッグ。オーストリアのものだという鞄は、本当に私が探し求めていた条件を満たしていた。カジュアルな服装に合わせればきちんと感が出るし、綺麗な服には勿論似合う。ひとつは欲しいベーシックな黒の革の鞄だからこそ、半端に妥協をしたくなかった。

地方在住のため、彼女のお店でのお買い物はオンラインが殆どであり、購入した鞄もすぐに届いた。仕事終わりの楽しみとして開封せずに出勤し、帰宅後すぐに包みを開けた。

思っていたよりも、自分にぴったりだ。

開封して思ったことは、それだった。ゴールデンウィークで人の多いなか出勤し、しわくちゃな気持ちで帰宅して、開封したご褒美。事前に写真は何枚か送ってもらっていたから、自分の服と何にでも合うだろうな、とは思っていたけれど。

気分を上げるために着ていた、赤のシースルーのシャツとも合う。赤いシャツも、彼女のお店で購入し、周囲からとても評判の良かった一着である。以前なら、自分には華やかすぎるから、と手に取らなかった一着だが、彼女に勧められて購入し、実際に着てみるまでは正直ほんとうに似合うのか半信半疑だった。

彼女との出会いが、彼女のお店との出会いが、大きく私を変えた。好きな服を着る喜び、楽しさ。都会の雑踏の中でも彼女が輝いていたことは、服の力もあるが、服を通して彼女自身の内面の輝きが溢れていたのだな、と今にして考える。

彼女のように、私も素敵な人になれるよう願いを込めて、今日も服を選び、纏う。いつか内面から輝けるように。

@sio2_nh2o
服とジュエリーが好き