先日友人と会って夜ごはんを食べながら他愛もない話をしたのが本当に楽しくて、かつ夫・医者以外の他人と久しぶりに話す機会だったのもあり、帰ってきてからも楽しかったなぁと反芻する日を過ごしていた。
友人は私の夫とも面識があり、かつとても聞き上手だ。約1ヶ月近くを自室のベッドに横たわることで過ごしていた私は、友達に対してペラペラと夫の話をし続けていたと思う。
それを楽しそうに聞いてくれていた友人は本当にいい奴で頭が上がらない。
ちなみにけっこうな時間を費やして話していたのは「夫は確かに温厚な人なんだけれど、夫の性格についてなにか特徴を上げろと言われて真っ先に『温厚』はあがらない」というような話だった。
社会人になってから夫と知り合った友人たちはいざ知らず、私と同様に大学のサークルで彼と出会った友人たちは上記の意見に首肯してくれると思う。
当時から私は夫の、「(理論上の意地悪なことをずーっとひとりで考え続けた結果)人に優しくすることに決めてる」ような性格の()の部分からもたまらない魅力を感じている。
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先述の通り閉じこもった日々を送っているため、帰宅してからは逆に夫に対して「どれだけ友人との会話が楽しかったか」ということを延々と喋り続けていた。(友人とそのパートナーは私と夫の共通の友達なので、具体名をあげて「○○さんが○○くんについてこんな話をしていてね、」と語ることができるのだ!)
そんな風に話をしていて印象的だったのが、「最近気付いたことってある?」のエピソードを披露したときだった。
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どんな話の流れだったか忘れてしまったけれど、お通しのクリームコロッケを食べ終えたSさんが先の台詞を口にした。そう問われるとなにかあった気はするけれど、具体的な事象は思いつかない絶妙な質問だった。
正直に「思いつかないな~」と相槌代わりに言葉を返す。
「私もびっくりしたんだけれどね、」と前置いて彼女が話してくれたのがこの話だ。
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フリーランスで働いている友人は決まった場所でなく相手先に合わせた仕事現場まで出向くことが多い。歩くのが好きな彼女は、時間に余裕があるときには徒歩での移動を選択するらしい。
身体への負担を考慮して長時間歩きそうな日には普通の鞄ではなく「肩が凝りにくいリュック」を背負っている。
しかしなんだか最近、歩いていると以前より身体にくる。
先日仕事現場まで約7kmを徒歩で移動したところ、とうとう肩だけでなく腰にもきてしまった。これはもう身体がダメなのか、鞄がダメになってしまったのか……
というようなことをパートナーであるAくんに話したらしい。すると静かに話を聞いていたAくんが「Sちゃん、ちょっとリュック背負ってみてよ」と言った。
言われた通りリュックを背負ったSさんをまじまじ見つめたAくんは言った。
「脇のところのヒモあるじゃん、引っ張ってみて」「……アッ!リュックが軽い!」「重心が下がってたんだね」
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「リュックが壊れたわけじゃなかったんだよ……」と(私にとっては当たり前だった知識を)さも怖い話のように披露するSさんに申し訳ないが爆笑してしまった。と同時に笑いながらとてもいい話だな……と感動したのだ。
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というエピソードを夫に披露した。
しみじみ「いい話だよねぇ」と締める私に夫も「いいねぇ」と相槌を返す。
「いいなぁ、僕もAくんみたいに、君の無知蒙昧を知識によって正したいなぁ」「えっ」
思ってもよらなかった夫の感想につい、彼の顔をまじまじと見てしまう。本気でその感想を述べていることが分かるから次の瞬間にゲラゲラ笑ってしまった。
「えっなに」
「いや私は、この話を聞いて『この年齢になっても新しいことに気付けるってすごくいいな、世界が広がるようで羨ましいな』って思って、いいなぁ~って言ってたからさ、」
「え~~~普通この話を聞いて共感するのってAくんの立場のほうでしょ。自分が生きる中で身につけた知識で無知な人間を助ける、素敵じゃん。」
「Aくんはそういう性根の曲がりかたしてないから謝れ!」
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私たちが大学生のころ「道徳の教科化」のニュースが話題になった。うちの大学は教員養成過程が大きな割合を占めていたため、友人間で何度かそのことについて話した記憶がある。
その一場面に夫がいる。
彼は心理学部で将来を見据えて真面目に学んでいる男だったが、この話題について「もし国語や算数のように道徳にも『道徳の専科教師』というものが設立されて、うちの大学に『道徳教員養成科』が埋まれるのなら本気で心理学科からの転科に踏み切る」とこれまた大真面目な顔で言いきっていた。周囲の友人たちと「お前のような『人の心が分からないから人の心を学びにきた』奴の価値観で未来の子どもの道徳倫理を染めようとするな!」と罵った。
リュックの話をしながら、そのときのことを思い出していた。
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当時から私は夫の「(理論上の意地悪なことをずーっとひとりで考え続けた結果)人に優しくすることに決めてる」ような性格の、()の部分からも、たまらない魅力を感じている。