かなしくないよ。
だってこれはただの夢だもの。いじわるな魔女がみせた夢のできごと。きっと、もうずっと、わたしはあの頃のまま眠っているの。
もう ずっとね
最後に笑った顔を見たのは何時だっただろうか。わたしを打つ細長い指は叩いた影響で赤く腫れていた。じわじわと広がる痛みの元にそっと触れて、静かに顔をあげる。顔がよく見えないけれど、目が合うといつも逸らされるの。
「……っ…あっちへ、いって」
澱んでしまった青色の双眼はそのまま視線をずらしてソファーへと歩いていってしまった。このままここに居たらきっと〝あの人〟は休めないだろう。ふらつく身体に力を入れて、リビングを後にする。もうずっと前からわたしよりも彼女の方が傷ついているんだろう。
一面を赤色が染め上げている。滴る液体はわたしを逃がしてはくれない。先程まであった筈の体温はすっかりと冷えきってしまっていた。