短い二月に別れを告げてやってきた金曜日のファーストデー。「見るなら何か新作!」と思って、ヘンリー・カヴィルの角刈りで話題だった『アーガイル』を見ることに。
正直、あまり真剣にチェックしていなかったので、予告を見るどころか『マシュー・ヴォーン』、『角刈りカヴィル』、『スパイもの』くらいの事前知識で見に行き期待値はそこまで高くなかった。
むしろ、マシュー・ヴォーン監督作品は「面白いんだけどちょっと苦手な描写が…」ということが起きやすい監督だったのだが、いい意味で予想を裏切られた。筆者と同様、マシュー・ヴォーンちょっと苦手だったけど気になるという方に、ぜひおすすめしたい作品。
おおまかなあらすじ
大人気スパイアクション小説「アーガイル」の作者のエリーは、新刊の原稿のスランプから脱するために家族の元に向かおうとする。移動のための列車の中で、彼女は本物のスパイと遭遇し、なぜだか自身の命も狙われることになる。
彼女を窮地から救ってくれたスパイのエイダン曰く、エリーの書く小説のストーリーは、とある悪の組織と秘密のスパイ組織のミッションそのものであり、彼女の本は『予言書』と呼ばれているらしい。
彼女がまだ書き上げていない最後の章に、組織が狙っているディスクの在り処が書かれることになるため、その場所を突き止めようと命を狙われる羽目に。
エイダンと共に少しずつディスクに近づいていくエリーだったが、どうやら彼女を救ってくれたエイダン、そして彼女自身にも秘密があるようで…。
エリーとエイダンの感想(ただのネタバレ)
冒頭に見せられたヘンリー・カヴィルとジョン・シナのアクションシーンがまさか小説の中の出来事だったとは、と開始十分で驚かされた。話題の角刈りカヴィル、実在の人物じゃなかったw
いかにもクールでスマートでホットなスパイといった風貌のヘンリー・カヴィル扮する「アーガイル」は、小説の登場人物だ。現実の世界に干渉することはなく、小説とエリーの想像の中でのみ出てくる存在なのだ。
つまり、今回の映画のストーリーを非常に魅力的に見せているのは、主役のエリー(レイチェル)と、彼女と共に戦うスパイのエイダンの二人だ。
マシュー・ヴォーン監督の撮るスパイ映画『キングスマン』シリーズは、コメディを基調に笑うしかないグロテスクなシーンを織り交ぜて撮られており、007を始めとする硬派で典型的なスパイ映画に対してのアンチテーゼが込められていた。とはいえ、主人公側のスパイたちはテイラーで仕立てられたオーダーメイドのスーツを着こなし、紳士を自称する。『キングスマン』のスパイたちは、一定のスタイリッシュさとクールさを持ち合わせていた。
だが『アーガイル』は違う。エリーを助けたサム・ロックウェルのエイダンは、列車で初めて出会った時は髭も髪も伸び切ってよれた服を身に纏った、スパイからかけ離れた姿をしていた。その後、髪と髭を剃ってさっぱりとした姿になった後も、どこか漂う頼りなさはつきまとう。
彼と共に事件の真相に迫ろうとするエリーも同様だ。猫を愛し、荒事とは無関係だと言いたげな彼女は、スパイの生きる危険な世界とは無縁の人間に見える。そんな彼女は元CIAの凄腕スパイらしいのだが、記憶を失ってから5年間ぬくぬくと暮らしてきたおかげで体型はふくよかになっている。
とまぁ、主役二人はスパイアクションの主役としては、あまりに『らしく』ない。
しかし、そこがいい。スパイはスタイリッシュに生きるだけの人間ではないし、5年も羊のように飼われた生活をしていればいくら敏腕だったとしても甘やかされボディにもなる。
それでも、エリーとエイダンの持つスパイとしての本質は変わらない。世界のためになることを信じて、相棒を信じて、悪いことする奴から世界を守る。見た目がどれだけスパイらしかぬとも、あくまで彼らは(途中色々あるけど)正義のスパイであり続ける。
好きシーンとかの話
デュア・リパをちょっと楽しみにしてたんですが、冒頭でサクッと死んで「アムステルダムのテイラーかなっ?!」と思わず立ち上がりそうになりつつ、一番最初のギリシャでのバイクアクションはVFXの処理が雑だしの少し不安な冒頭を乗り切ればもう大丈夫。
ただ列車を初めとして、室内でのアクションが多めだったので、背景含めての派手さは控えめ。崖からバイクで落ちたりはしないが、ビルの上からのジャンプはある。
終盤にかけてのレインボー煙幕ダンスと原油スケートは、もうなんかよくわからなかったけれど、笑いながら見るにはちょうどいい塩梅。煙幕ダンスは虹色の煙を見ながら『キングスマン』のマイクロチップ爆弾のことを思い出してそれもまた笑いを誘うわで良かった。
エンディング曲を歌っているのが、というかキーラ役が『ウィッシュ』でアーニャを演じたアリアナ・デボーズだと全然気がつかなかったが、彼女の歌声は力強く美しく、物語を終えた後に聞くのにぴったりだった。『Electric energy』と共にめちゃリピートしている。
まとめると
オスカー候補の重厚な(気の滅入る)映画をここ立て続けに見ていたので、観賞後久々に非常に爽快な気持ちで映画館の外に出られた、愛すべきポップコーンムービー。
監督らしさが抑え目だったおかげで、綺麗なキングスマンというか、アクの薄いコメディ映画になって個人的には大変ありがたかった。
たまにはこういう映画見て笑うのもいいと思うし、ポストクレジットを見るに、ヘンリー・カヴィルはキングスマンに参加ってことでいいんですかね。