「ガイリチ、社会派ドラマも撮れるんだ…」という視点でお送りします。
神との契約も国家との契約は履行されずとも、人と人の交わした恩義による契約は履行される、かもしれない。
契約を信じて裏切られた中の、ほんの、一握りの人間だけ。
そんな映画でした。
コヴェナントって
Covenantは聖書用語?の「神と人間の契約」からきてる単語で、約束とか契約と使われるらしいけど、「神がイスラエルの民に与えると誓った約束の地/カナン」の契約が本質として存在している。
映画の冒頭で説明の字幕入るけど「アメリカ人はビザをチラつかせて通訳のためにアフガン人を現地で協力者として雇ってた」んですよね。つまりこれがアメリカからアフガン現地人へのCovenantな訳だけど、このビザの約束はまぁほぼ果たされない訳で。タイトルを知って席についた観客へ冒頭で、約束を反故にするアメリカの政策を冒頭から殴ってるのを見せてますよね。
あと、大抵日本語に付けられる副題は白い目でみるタイプですが、今回の『約束の救出』は二重、三重の意味になっててよかったんじゃないかなと思います。
おおまかなストーリー
今回の映画は「運良く」助かった案件を下敷きにしてストーリーが練られていて、協力者のおかげで命を助けられたアメリカ軍人のジョンを、ジェイク・ギレンホールが演じてる。
彼は部隊が全滅しても生き残っちゃうし、アーメッドのおかげで国に帰れちゃうし、上司を脅してもう一回アフガン行けるしビザ取れるし最後もまたおうち帰れるしな都合のいいスーパーラッキーマン。
彼がこの映画のアメリカ的ヒロイックな部分を全部背負ってるんだけども、そんな彼がみっともなく移民局やらなんやらに怒鳴り散らしながら電話するシーンは大変見もの。
アーメッドとその家族にビザをとってくれと電話を掛けまくる姿は「約束を守るヒーロー」のように見えそうなものの、実際は(大佐を口説く時に語った)純粋な恩義だけではなく、自分一人生き延びてのうのうとアメリカで幸せに暮らしている罪悪感、その原因を作ったアーメッドへの恨みなど、ヒロイズムだけでは言い表せない理由がいくつも重なって生まれてる。
結局彼は軍人としてではなく、一般人として偽名を使って、自費でアーメッドを助けに向かう訳ですが、彼の『恩義』を返すジョンの姿はアメリカ的ヒロイズムを刺激しながらも、国は紙用意する手伝いはしても救出には手を貸もしないのが見えてる訳で、そこがやっぱり盛大なアメリカの政策批判に見えるんだよね。助ける気、ないじゃん、と。
しかも、民間軍事会社のパーカーたちも偽名を使って「アーメッド」を助けようとする人間には手すら貸さない。「英雄ジョン・キンリーとアーメッド」だったら助ける。自分たちはこれまでに数えきれないほど通訳を使い潰しているのに、助ける人間を選んでいるの、最高に最低ですよね。
ラストの字幕を見せられると、「はい、君たちは20年も現地人を使い潰したし、挙げ句の果てに全てを投げ出して逃げ帰ったせいで、何人もの協力者と家族が殺されて、今も苦しんでる人が大勢いますけど、そこんとこどう思ってます?!」(超意訳)って殴られている気持ちになって、さらに心にくる。
好きシーンの話
タリバンアジトに突入するアクションシーンは、銃撃戦も合間って非常に熱い。みんな死ぬけど。
ガイリチ特有のやりすぎ大爆発も一応健在で、AC-130でタリバン掃射するのはホントさぁ…(死の天使呼ぶシーンあるおかげで、彼らは絶対助かるなとは思うんですけど)まぁ、そんなんだからアメリカ軍は世界各国で嫌われんだよ!感が出てくるし、やっぱりやりすぎくらいがいいのかな、うーん。
あと、ちょっとだけ出てくるF15だか16だかに、ほんの少しテンション上がった。
アクションはそんな感じで、そのほかの場面だとジョンを荷車に乗せて運ぶモンタージュが美しすぎてなんか涙出た。
アーメッドが苦しみながら木製の荷車を押して山を登っていくシーン、多分キリストの受難を意識してるよね。途中死ぬほど苦しみながらも投げ出すことなくジョンを気遣いながらやり遂げる姿が、美しいのなんのって。
その間の記憶をほとんど覚えていないと言いながらも、時折夢で思い出すジョンの視点の記憶回想モンタージュシーンもさらに胸が苦しくなるほど美しかった。
ジョンが撃たれた後にアーメッドがそれまでの「曹長」ではなく、「ジョン」と呼ぶところ、あれは「愛しい人/大切な人」の意味で呼んだのかな…とか思いました。
ちゃんとガイリチ風味のセリフも多くて、そこはそこで楽しめた。奥さん横で寝てるのに「彼が忘れられない」って言い出した時は、アフガン行くために離婚でもするのかと思って焦ったけどそんなことなくてホッとした。
まとめ
やや主人公の行動が美化されている面はありつつも、単なる娯楽映画ではないし、プロパガンダ映画一辺倒でもなく政府・政策批判の点もちゃんと持っていて、個人的には高評価な映画でした。
それにしても、近年、ガイリチ働き過ぎでは…?