約束

静森あこ
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公開:2026/2/27

青いアイシャドウを煌めかせながら気怠そうに上目遣いをしてみせる女。私が吸っている煙草をその女に咥えさせると、女は慣れたように煙を吸う。

 すると女の姿が、煙草の火先が紅く勢いづくほどぼんやりとし、宙に消えてしまいそうになる。私は自分の目の病気を疑ったが、どうにも違うようで「これはなんだ?手品か?」と肝を冷やすのを隠しながら笑うと、女は「私が消えても、貴方の記憶に残しておいてちょうだい」と、的を射ないセリフを、相変わらず気怠そうにぽつりと呟いた。私は「忘れたりなんかしないさ」と、守れないかもしれない約束をして女の顔を撫でた。

 煙草はだんだんと燃えて短くなっていく。私たちは一本の煙草を吸い合いながら唇を重ね、独りでは無いことを確認し合うかのようにして軽く触れ合った。そうしながら、私は女の目元をじっと見つめ、女を記憶に焼き付けようと努めた。

 煙草はとうとう終わり、女は嘘のように消えた。

 私は、煙草の匂いが充満する六畳の自室で、空気を掴むかのように腕を伸ばしていた。一体、ひとりで何をしているのだろう。

 灰皿に目をやると、ひとつの吸殻に赤い口紅の跡。

 頭を過る青いアイシャドウの目元。気怠そうな上目遣い。

「誰だい?」

 そう独りごちても、当然、返事などない。

 そういえば、私は何か約束をしていたように思う。

@slight_fever
小説とか