北欧映画祭の上映を知ってから、このトーベの3作品はできたら見たい、もし1作だけならこれを、と考えていた『ハル、孤独の島』を見てきた。ハルでの暮らしを島の選定や小屋の建設許可から綴った『島暮らしの記録』を読んだとき、非常にワイルドなその生活ぶりは「丁寧な暮らし」という響きから想像するものとはだいぶ隔たりがあるなと思いつつ、生活を最低限のものでまかなう、自分で作る・調達する暮らしへの身勝手な憧れを募らせていたけれど、映像からは文字情報よりもリアルな「生活」が迫ってきて、淡い憧れを断ち切ってくれた、気がする。
冒頭、ホームビデオに近い映像の荒さと手ぶれに一瞬ひるみつつ、時間が経過するにつれて、ざらついた映像は、さまざまな工夫を凝らして暮らす彼女らふたりの島での生活を切り取る手段として馴染んでいるように感じられた。荒波で泡立つ海、風や波でちぎれそうなテントはトーベの心象風景のようにも思える。ふたりきりで暮らしているとどんどん口数が少なくなり、そうした時に丘に登って風の音を聞く、という箇所や、詳しい説明が挟まれない映像の数々に、冒頭のトーベのナレーションの言葉「孤立ではない孤独」が頭をよぎった。
25回夏を過ごした島で、もうここで26回目の夏は過ごせない、と老いを感じる瞬間のことを、おそらく以前よりも手元に引き寄せて想像できるようになってきているこのタイミングで、この作品に出会えて良かった。本当にむりになる一歩手前で手放すことを決断できる、その潔さを私は持てるだろうか、という途方もない想像に手を伸ばしてみる。
淡々とした映像の途中で時々突然踊り出すトーベの様子が度々登場し、これが元ネタ(も何もないが)かと映画『TOVE』を思い出す場面も。いちおしはでかい黒猫を抱いたまま自由に身体を揺らすトーベ。網やテントを繕うのが好きなトゥーティに勝手に親近感を抱いている。鱈を手際よくしめていく手つきを真似たい。
追加:でか黒猫を抱くトーベの映像は1:45くらい。地面に寝そべっている映像からはサイズ感がわからないので、抱き上げたときのトーベとの対比にびびる。
帰り道にあった看板🐦

チケットQRコード読み取り機の横のぬいぐるみズ。
