人間というものは、どうやら社会が生まれるよりもまえから、社会的な生き物であるらしい。個々の人間の持つ原初的な社会性が、だれかと繋がり合ううちに、実際の社会性になって現れる。つまり、社会に出て身につけた反応でも、それがそもそもの人間の本能だよ、と言うことができる。
ここにひとつの社会があった。その社会ではみんな、困ると笑った。特別に困ったことがあっても笑って済ますばかりで、互いに助け合うことはほとんどなかった。
そこに生まれた小人Aもまた、困ると笑った。なにか問題が起きても、多少のことなら笑ってやり過ごした。
ある日、小人Aは大人たちに聞いた。
「どうして私たちは、困ったときに笑うんでしょう」
大人たちは答えた。
「それが人間の本能なんだよ」
その答えを聞いて、小人Aは笑った。