掌編:笑い

さよならおやすみ
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公開:2025/9/14

人間というものは、どうやら社会が生まれるよりもまえから、社会的な生き物であるらしい。個々の人間の持つ原初的な社会性が、だれかと繋がり合ううちに、実際の社会性になって現れる。つまり、社会に出て身につけた反応でも、それがそもそもの人間の本能だよ、と言うことができる。

ここにひとつの社会があった。その社会ではみんな、困ると笑った。特別に困ったことがあっても笑って済ますばかりで、互いに助け合うことはほとんどなかった。

そこに生まれた小人Aもまた、困ると笑った。なにか問題が起きても、多少のことなら笑ってやり過ごした。

ある日、小人Aは大人たちに聞いた。

「どうして私たちは、困ったときに笑うんでしょう」

大人たちは答えた。

「それが人間の本能なんだよ」

その答えを聞いて、小人Aは笑った。

@sonovels
さよならおやすみノベルズという個人小説レーベルで地味に書いています。サイトで読めばタダ。Kindleで100円。 sayonaraoyasumi.github.io/storage