プロローグ(仮)I

そらから
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 目を覚ましたら、味噌汁の匂いが鼻をくすぐった。ぐぅとなるお腹に催促されるように起き上がり、同居天使がいるだろうキッチンに向かう。

 彼はちょうど味噌汁の味見をしているところだった。声をかける前に俺の気配に気がついたのか、振り返って「おはよう」と笑う。いつ見ても理想的な天使だと思う。小さい頃絵本で読んだ天使のまんま。私生活がダメダメな自分と嫌な顔をせずに過ごしてくれるのは彼くらいだった。異常なまでに繊細と言われ続けた俺が一緒にいてもこわくない。本当に嫌じゃないんだと思わせてくれるこの天使が同居人で本当に良かったと思う。

「朝食、ありがとう」

「どういたしまして。今日早い?」

「お腹空いて目が覚めただけで家出るのは遅いよ」

「なら、ちょうど良かった。一緒に食べよう」

 顔洗っておいで、という彼のいう通りに洗面台に向かい顔を洗う。顔を上げるとなんとも言えないやる気のない顔が写った。優等生の同居人と違い自分は本当に天使らしくないなと思う。女神様の新しい政策である「人間への配信」がなければ自分は一人前の天使にすら慣れなかっただろう。

 用意されていたふかふかのタオルで自分の顔を拭いた後、キッチンに戻る。テーブルの上に並べられたお皿にはご飯と卵焼き、サラダに味噌汁が用意されていた。

「ごめん、全部やってくれて」

「いいよ。こんなの大したことじゃない」

 自分にとってはこういう家事すらかなりの障壁である為、そういう彼には尊敬の念しかない。

「顔洗ったのなら早く食べよう」と微笑む相手に同意するように椅子に座る。

「なんだか久しぶりだね」

「うん。新しい職場のせいで最近バタバタしてたから」

「そっか。でもすごいよ。昇進おめでとう」

「ありがとう。でもすごくはないよ。ほんとたまたま人間たちに人気が出ただけというか」

「謙遜しなくていいよ。あおばの実力でしょ」

「ありがとう、みはる」

 けど俺はお前の方がすごいと思ってるよ、という本心は小っ恥ずかしくて言えなかった。たまたま人間界で人気が出てそれを認められて天使界でもそこそこの花形の職業になったとはいえ、前から人間界に降りて人を救済してきた同居人のみはるには敵わない。それを自慢することもなく淡々と仕事を行う彼といると、自分のダメダメさに凹んでしまう時もある。

 眠たくなったから今日はここまで。

あおば(俺)……私生活ダメダメで天使らしくないが、人間達への配信でバズって信仰力を集めたということでめでたく花形の職場へ

みはる……あおばの同居人。昔からいる天使らしい天使。優等生

@sorakara
小説にも満たない話と私信