夏至歌会感想

aida
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2024年6月20日の晩、まほやく世界の夏至を生きる生物、無生物ありとあらゆるもの(と理解した)というわくわくするテーマの歌会に出ました。廊下さんが構想を呟かれていた段階から絶対出たくて、いただいた詠草を読んでもわくわくして好きな歌が多かったんだけど、全体的に読み解きや説明がわたしにとって難しいタイプの好きな歌たちだったので、みんなで読めたことがよかった。廊下さんとてもありがとうございました。心配りが行き届いていて、コメントに対するフォローが優しくて居心地良かったです。以下感想など。敬称略します。

⒈ 舟 白の深い陰翳 ぼくもその一部だという翠の湖面/きりんモリモリ

一枚の絵のよう。夏至の、北の国にしては強い光、乾いた空気、静寂を感じて、死の湖の歌だと思った。主体を考えた時にミスラさんは浮かぶんだけど一人称「ぼく」にやや引っかかり、「ぼくもその一部」だと「湖」が言うという読みをした。絵のような歌だと思ったところから絵の一部としての湖を思ったのだと思う。

⒉ 夏満ちてかつて違へた約束に閉ぢた廻廊思ひだしたる/桜

廻廊で導き出されたイメージが東大寺の大仏殿で、廻廊の奥に大事なもの(大仏とか)があるのに、約束を違えた結果回廊の入口が閉ざされてしまって永遠に触れられないというのを思った。そこから、約束を違えてしまったことで相手の心に触れうる回路は閉じてしまってもう届かない、触れられないと読んだ。主体、魔力を失った魔法使いというのは考えたけど、名もない誰かの話でもいいなあと思った。廻廊の扉、なんとなくだけど夏至や冬至の時だけ開きそうな感じもして、でももう触れ得ないから遠くから眺めている、初句の「夏満ちて」でそんなことを思いました。

⒊ 道半ば白く揺れるは半夏生(はんげしょう) 手からこぼれる水のゆきさき/米田

放浪の旅の途中で半夏生が目にとまって、道を外れて水辺に降りて水に手を浸すレノックスのイメージで読んだ。手からこぼれる水をあまり見ていなくて水の行き先には頓着していない感じがする。わたしがレノックスに持つイメージがそんな感じだったので彼を見たんだなと思う。水の行き先(旅の続き)についても何も思わないはずはないけれどそれを目に見える形で表に出さないというか。

米田さんの解題で示されたフィガロ、絶望が深くて好きですね。

⒋ やはらかき花冠をひからせておまへは生きてゐる生きてゆく/なつこ

旧かなが効いていて、長生きの魔法使いが若い魔法使いを眼差している景を正確に受け取ったと思う(それってすごいことだと思う)。夏至のいまこの瞬間の光の美しさ、花の瑞々しさ、花冠をのせたおまへの瑞々しさ、命の輝きみたいなものが感じられて、それに対する慈しみと祈りが感じられてとても好きな歌でした。わたしは主体を特定の誰かでは読まなかったんだけど、きりんさんのチレッタ読みはぐっときた。

それから、オズが文語旧かなっぽいのはそう思うんだけど、アーサーに請われてたどたどしい口語の歌を作ってほしい。わたしがうれしい。

⒌ じゃあしろいあいがあったっていうのかここからはもう減るだけなのに/狐

読むのが難しかったにもかかわらず好きな歌で、何か切実な感情と冬的な要素を受け取っていました。しろいあい、と減っていく、から雪を連想したのかも。取り返しのつかない感じがする。アイザック、そうか、アイザックかー、あー、となった。アイザックで読むと思っていた以上につらい。

⒍ 眩むほど白いだなんて馬鹿みたい日傘の影に放る祝福/廊下

アンビバレントな感情が書かれているなと思って読んだ。祝福なのに放るんだよね。夏の光の白さ強さが馬鹿みたいと言っているので北の人かな、でも北の人にとって光は祝福でもあって、だから日傘の下のあなたに光を(祝福を)放る。日傘の下の人は強い光を避けるために日傘をさしているので、その祝福は微妙なんだけど、紛れもなく好意をくれたことはわかる、みたいな。考えがまとまらないままここに置いておくんだけどわたしは主体の不器用な好意をこの歌から受け取った気がしてそれが好きだと思った。

⒏ 手を伸べる口実が欲し(晴天に)雨天に冠(かぶ)る透明な傘/三紙

口実が必要な主体が臆病すぎて愛しい。あなたに手を伸べたいという気持ちだけで伸ばしていいのでは、と思うけれど、この慎重さは誠実さかもしれない。わたしは自力では誰って特定できなかったんだけど、フィガロ読みは納得感があり、また、東の人という読みが出た時にネロ…!と思って、またしてもフィガロとネロの類似性に思いを馳せていました。

⒐ 渡し守に見られぬように点されるずっと明るい夜のかがり火/もじほこり

夏至のお祭り! いま生きている村人の中に渡し守を見たことがある者はなく、神様か妖怪みたいに伝承でのみ知られる存在で、でもそれを口実に村の人たちは夜中松明を焚いて踊ったりするんだろうな。

桜さんのミスラ目線という読みは、渡し守に見られぬようにといいつつ見られてるという状況がとてもツボでした。面白い。

⒑ ひかりごと手折られてゆく感情をみじかい夜とあなたに灯す/ミクニハレノ

光ごと手折られる感情は花みたいあるいは蝋燭みたいとも思って、それは夜とあなたの心の小さな燈になるものである。手折るってまあまあ暴力だと思うのに主体の感情のフラットさが不可解と思っていて、かつなんとなくいたいけな感じを主体から受け取りつつこの主体を特定できなかったんだけど、解題で花と聞いてとても腑に落ちた。感情のフラットさとかいたいけさとか。夜、手元だけぼうっと柔らかい丸い火で光っている景だけはずっと浮かんでいました。

⒎ 朝露に脚を濡らして 大好きなひとの力になれたらいいな/あいだ

夏至の朝露の伝承は知っていて、夏至、朝、朝露、朝日あたりのイメージを使いたいと思って作りました。レノックスの羊とかクーリールとか、レイタ山脈の精霊とか、他の国の精霊とか、まほやく世界を生きる魔法使いとか、人とか、あらゆる大好きな人がいる人で読んでもらえたらいいなと思って作った。主体を限定しない作り方がいいのかどうかは自分でもわからない。夏至の光にふさわしい明るい歌が作りたかった。色々な人で読んでもらってうれしかったです。ミチル読みはフィガロ……となってわたしが泣いてしまう。

ありがとうございました!