昨晩のカヌレさんの愛憎歌会、素敵だった。自分の好きなお題で歌を作ってもらうのいいな。集ったみなさんが楽しそうで、そういう場の隅っこにいさせていただけたこととても嬉しい。愛憎は婉曲、駆け引き、ゲームって感じで色っぽくって余裕があって格好よくて憧れはするけれど、わたし自身は飛車と飛車で戦いたいんだなと思った。それが気づいたこと。以下、読みとも言えない感想のようなもの。
1 ムード・インディゴの情感泡にして君越しに溶ける藍色を飲む (米田さん)
初句~2句目のムード・インディゴで曲が流れ出す作り、格好いい。しかも結構重たい色っぽい曲。それも相まって、わたしは「君越し」でムル、シャイロック、グラスという位置関係を想像してしまい、ムルがシャイロックにグラスを持った腕を回しているのかと思った。体は密着させずに腕だけなんですよ。よくないですか。
2 愛するに足る溜息と探求に足る煌めきでポーカーゲーム(葉子さん)
「タ」音「キ」音のリズムが小気味良くて好き。対比もきれい。対等な人同士の駆け引きという感じで。わたしが愛憎でいいなと思うところはどこまでも対等な感じがするところかも。
3 焼けた靴跡 誰にも見えない月明かりも入れないテロワール(カヌレさん)
シャイロックの心=テロワールだと思って読んだ。そこにはムルが残した焼けた靴跡があって(ムル自身はいない感じがする、不思議)、そこには月の光さえ差し込むことは許さない。誰にも見えない、というより誰にもみせない場所なんだと思う。それこそ愛憎入り交じった一言じゃ言えないような感情、長い時間かけてそれを育んだテロワール。心象のことを歌っていると思うんだけど、ぶどう園が見える。
4 生きるなら難しくなきゃ 永らえて未だ行き場のない種明かし(廊下さん)
一つの謎に一生をかけるということの、人と魔法使いの時間の違いを思った。十年二十年じゃないんですよ……。「生きるなら難しくなきゃ」がめちゃめちゃ格好よくて、ムルはいまもそう思ってはいるだろうけど、下句を読むと「未だ」種明かしの「行き場のない」状況に少し飽いているようにも見えた。わからない。ムルは飽きないかな。
5 いく度のあの夜があるこのBarの専用カウチで猫の真似(ぴよexさん)
下句、字足らずなんだけれど、わたしは「専用カウチ、で、猫の真似」と休符が見えてあまり字足らずを感じなかった。休符読みすると、このムルはすごく余裕があってもったいぶった感じがして(わたしの考える)ムルっぽい。「いく度のあの夜がある」、たしかに全て覚えているような気がする。全て覚えているのに知らん顔をして猫の真似をしているとしたら最高だな。
6 ゆけずもどれずのプリズム枝だけを残してそれでもあなたに宿る(トラネさん)
今ムルが幹というか本体部分で、ばらばらに散った欠片がプリズムなのかなと思って読んだ。欠けて散らばった部分がありつつも本質は今ムルにちゃんと宿っている、損なわれないものがあるということかな。会でも言及されていたけれど上句のリズムが本当に素敵。声に出して読まれるまで気づかなかった。枝にきらきらがいっぱい付いたり枝からこぼれたりするイメージ、「たぶんゆめのレプリカだから水滴のいっぱいついた刺草を抱く(加藤治郎)」を思い出した。
7 真心をむき出さないで遊星に憧れないで さらば、良い夜を。(谷さん)
この歌の二人は旧ムルとシャイロックで、したがって、真心をむき出さないで(ムル→シャイロック)、遊星に憧れないで(シャイロック→ムル)と読んで、生身と生身じゃなくあくまで私の見せたい私とあなたの見せたいあなたで遊戯のようにひととき楽しく過しましょうという感じなのかなと思った。「真心をむき出さないで」も「遊星に憧れないで」も「さらば、良い夜を」もどれも本心という感じがして、実際本心なんだろうと思う。西、わかりません。わからなさ含めてこの歌が好き。
8 肌色の月光刺さるヴィンテージ 問いの答えは次会うときに(あんの屋さん)
「肌色の月光」が上手。わたしは肌色は月光に掛かると思って読んだけど(シャイロックの恋敵たる)月の生々しさと存在感を感じた。あと肌色と言っていることでどうしても人肌のイメージを連れて来るのでヴィンテージたるシャイロックの肌というのもしっくりくる。「問いの答えは次会うときに」、ふたりはこういうふうに何百年も過ごしてきたんだろうな。約束しなくても次がある関係って素敵。