幻滅

soto
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8年ぶりぐらいにバルザックを読む。昨年読んだ読んでいない本について堂々と語る方法(バリおもろい)にこのタイトルのピークな部分が掲載されていたからだ。相変わらず皮肉と悪辣の名文ばかりで面白かったー! …とモヤモヤが同居する読後の余韻であった。思い出したがバルザックは大体ラストがスッキリしない、結構似た話が多いので後味も同じなのだが…

モヤっとした点

傲慢な貴族と貧困極まる平民というクラシックな世界観、昔はディケンズやエミリー・ブロンテらをそれはもう有難く読んでたけど、なんかあまり共感し通しではなくなってきたな…さすがに古典すぎて…話の大筋や駆け引きも大体似通った展開になるしなあ

この幻滅は3部構成となっており、1部は田舎の詩人リシュアンがパリに憧れる話、2部では彼がとうとうパリで花咲かせる話、3部で地方に帰ってくる話だ。当然2部がこのお話のメインであり相当のページと情熱が割かれているのは分かるが、3部でガラッと文体が変わるのだ。主軸が記者のジャーナリズムから印刷と約束手形・民事裁判の話に移るので語り口調が変わるのは理解できるけど、テンポも巻きすぎだし人物たちが超有能ムーブと無能ムーブとでご都合主義を繰り返すので「いやそうはならんやろ」とさすがに突っ込んでしまう。超展開は超展開で面白いけど2部であれだけいやらしいほどにじっくり煮詰めた人間の心理描写はどこいったんや…後書きを読むに当時のバルザックは金と締め切りとで相当追い込まれていたみたいで、然もありなん

でもやっぱり面白い

そんなんでこれまでの登場人物が再集結するのにイマイチ盛り上がらない3部だが、それでも2部の異常なテンションの面白さが損なわれることはない。

詩人としての才能を世に知らしめるために田舎からパリに出てきた美青年リシュアンだが、よい条件で出版してもらうことが出来ず、文学サークルに入りびたる日々は楽しくもあるが生活は困窮を極める。そこにひょんなことから知り合った記者ルストー(名前が似てるからFE封印の剣のルトガーの顔で脳内再生してしまう)からジャーナリストの華やかで堕落に満ちた世界を知る。文芸も、劇場も、記者が新聞に寄せる記事一つで運命が左右される。今日は叩き、明日は褒めそやせば、その影響力と生まれつきの美貌とを持ってリシュアンは一躍パリのスターとなる。しかし意志薄弱で傲慢な(要はクソ野郎、マジで)彼が、踊り子の愛人と彼を捨てた元恋人、自由派と王党派の間で揺れ動く間に策謀に巻き込まれていき…

と言うあらすじだけで面白そうなのに、ジャーナリズムを巡る人物たちの腹黒くも人生の核心を突いた名言の数々、それを悪辣に表現しきるバルザックの手腕、正に「人間喜劇」と呼ぶに相応しい最高のエンタメ小説なのであった。主人公リシュアンを筆頭に登場人物の多くが共感しようのないクソ野郎どもばかりで、その語り口からも全然親しみを感じないのだけは読んでいて辟易するけどね! バルザック、面白いけど、読んだ後何も覚えてないのもそういうところだぞ(ゴリオ爺さん読んだの相当前でラスティニャックもヴォートランも何も覚えてなかったぞ、それもどうなの)

良くも悪くも稀代のエンタメ小説なのでした

@soto
音楽/映画/読書/美術が好き Ars longa, vita brevis