棕櫚ってなんやねんなんなら読めもしねーぞ、と思ってたけど椰子の木のイメージでよいらしい(あとがきより
結局のところ誰だって自分のすべきことをするしきゃないんだ、それも自分の手にある道具で、自分の習ったやり方で、いちばんいいと思う方法でな。
PERFECT DAYSで役所広司が読んでいたタイミングで丁度新訳で文庫化されたので読みました。バルガス・リョサ(楽園の道しか読んでないけど)形式の元となった、表面上は関係のない2本の物語が交互に語られていくのが本作。医者志望の若者と人妻とが愛を求めて逃避行する野生の棕櫚と、囚人と妊婦とが氾濫するミシシッピ川を船で漂流するオールド・マンとの2本立てである
一見非対称な2つのストーリーが女と子どもというテーマでクロスする辺りは楽しめるけど、フォークナーらしい陰鬱で長ったらしい長文を乗り越えても、八月の光やアブサロムのようなカタルシスや読破感は薄かったかな。そりゃ役所広司も難儀な顔をして読み進めるわ! それを求める作品でもないし充分楽しめたけどね
たぶんめちゃめちゃ有名なんだろうが、巻末にある1950年、ノーベル文学賞受賞時のフォークナー自身によるスピーチがめちゃめちゃ感動的だ
人間が不滅であるのは、生物の中で人間のみが絶えることのない声を有しているがためばかりではなくて、人間が魂を、すなわち同情し犠牲となり忍耐し得る精神を有しているがためであります。詩人の、作家の義務は、かような事柄について書くことであります。人間の心情を気高くし、彼の過去の栄光であった勇気と名誉と希望と誇りと憐憫と犠牲とを思い起こさせることによって、彼が耐え忍ぶのを助けること、それが作家の特権であります。
アラブ、祈りとしての文学でも書かれていたのはこういうだった。私は文学が、葛藤する人間の心が、それを描かんとする文学が、とても好きです