後頭部を殴られた。
「リアクションが早すぎるんだよ」
カニ料理店で〆の雑炊を待っていたときのことだ。店員さんが手際よく鍋底をさらい、溶き卵をほぐしている間に、夫が2、3適当な会話を店員さんに投げかけている。
彼はこういう時間を一切苦にしない。適当に灰を撒くくらいの気軽さで雑談の小さな花を咲かせられる。私1人だったら、ちょっとした居心地悪さと共に無言で鍋を眺めているだけだっただろう。
私は初対面の相手との会話が下手だ。学会発表のような場では軽妙に喋れるのに、1対1の会話になると、どうにも相手がやりづらそうにしているのがわかってしまう。愛想が悪いのかと思い、長年表情やリアクションに気を遣ってきたけれど、そもそもの問題はそこではなかったらしい。
どうやったら、ちょっとした会話が上手くなるの?こういうときのとか、美容院とか。
その質問への返事が、冒頭のリアクションが早い、である。
「返しが早すぎて会話を拒絶されてるみたいに感じる」「もうひと、ふた呼吸おいてみたら?」
目から鱗だった。
ずっと、アプローチを間違えていたらしい。必要なのはキレのいいリアクションではなく、相手の話を聞き、飲み込んだ、その「間」だったらしい。
ずっと気になってたんだけどさ、と続けられる。まじか。ずっとか。もっと早く言ってくれていたら。でも、今言ってくれて助かったよ。