春分とのことですが、今日の山奥は大雪です。猛烈な勢いで降り積もっていく雪を横目に見ながら、日記をしたためています。せめて写真は春らしいものにしたくて、過去に撮ったものから、それっぽいものを引っ張り出してきました。まだまだ春は遠いです。
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先日、勤め先のエステティシャンが困っていたところを助けたら、「ぜひお礼を」と言って、ボディケアの練習台を兼ねた、開業前のモニター体験をさせてもらえることになりました。モニター募集のお知らせ自体はのちに全社員に通達されたのですが、その第一号が私というわけです。情けは人のためならず、とはこのことですね。
ホテルに勤める者として、日頃から身だしなみにはとても気を遣っています。しかし、こと美容となると途端に頓着しない性分なもので、実はこれが人生初のエステでした。一体どんなものなのだろう、と、ワクワクしながら施術をしてもらいましたが、『エステ』という体験を最大限に楽しむために、詩や小説に近しいほどの世界が作り上げられていました。
まずは出してもらった酵素ドリンクを飲みながら、好みの香りのオイルを選ぶのですが、この時点でもう、非日常が展開されていきます。陰陽五行をコンセプトにした、5つの芳しいオイルたちが小瓶に入れられて、施術室の淡い照明を受けてキラキラと輝く光景は、否が応でも胸が躍りました。それらを前にして、「陰陽五行とはなんぞや」という説明をしてもらっていると、だんだんRPGの導入のように思えてきます。あまり詳しくない分野なので、興味深く傾聴しました。
『今、直感で一番良い香りだと感じたものを教えてください』と言われたので、水をモチーフにした香りを選択したところ、ストレスを抱え込んで鬱屈している人がこの香りに惹かれやすい、とのこと。占いみたいで面白いです。毎日すったもんだしながら日々の業務に勤しんでいるので、さもありなんといったところ。(余談ですが、帰ってから「そういえば陰陽五行って、本当の占いもあったよな?」というのを思い出して、試しに調べて算出してみたら、私は『木の陽』という分類でした。水の香りに惹かれるべくして惹かれたのかもしれません、おもしろ〜!)
自分で選んだ良い香りのオイルを塗られて、パン生地のように捏ねられ続けると、あちこち凝り固まっていた身体がすっかり解けていき、(このままずっとパン生地で居続けた〜い)という願望虚しく、あっという間に60分の施術が終わってしまいました。当然ですが、やはりエステの道も一朝一夕とはいかず、日々経験値を蓄えながら精進していくものだそうです。職人であり、プロフェッショナルの眼をしていました。自分の仕事に一生懸命取り組む人というのは、美しいです。
それにしても、身体の凝りが解消されると、人間とは上機嫌になるものなのですね。最近公私共々いろいろあって、少し落ち込むことが多かったのですが、施術で満遍なくふかふかにしてもらった途端に、「ま、諸々なんとかなるわな!」という気持ちになるのですから、凝りというのは侮れません。良好な精神維持のため、これからも月に1度くらいはマッサージなんかを受けに行こうかな、と思えたくらいでした。
香水や化粧品、ジュエリーなど、とっておきの品として選ばれるものには、しばしば世界観が付与されることがありますが、弊社のエステもそれに漏れず、始まりから終わりまで、徹底したストーリーが構築されていました。日頃あくせくやり過ごしている日常を少しだけ忘れるためには、やはり物語が欠かせないのだなと、改めてその力を実感しました。
私の個人的な見解ですが、ホテルマンの美学というのは、お客様の要望にNOと答えないのはもちろん、玄関に足を踏み入れたその瞬間からチェックアウトまで、抜かりなく非日常を提供し続けることだと考えています。付帯施設であるエステの方がこんなにも良い仕事をしてくれているのだから、私も負けてられないぜ〜!という気持ちを、開業前に改めて抱き直せた、という意味でも、本当に良い体験でした。