4月に観た映画

spnminaco
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北国の春は急に来る。つい先日までストーブつけてたのに、もう梅が咲いたねと思ったらすぐ桜も咲いて、水仙とチューリップも木蓮も姫りんごも一気に咲いて、気付けば散ってる。今は新緑がまぶしい。そして暑い。と思ったらまた寒い。

仕事はGW進行だし実家マターが山積みなので、かろうじて散り際の桜を花見したくらいだ。でも映画は待ってくれない。観たい映画があるときに限って集中するのはなぜ。いつもなら自分にとってGWは閑散期だったのにな。

それでも、プロレスラー一族の呪われた実話を基にした『アイアンクロー』を見逃すわけにはいかぬ。

ショーン・ダーキン監督の映画はどれも家と何もない空間の見せ方が不穏すぎて怖いんだけど、もう亡霊映画、ゴシックホラーみたいだった。リングと観客の間にある闇と、庭にぽっかり広がる空洞。ゾワゾワする間はあっても容赦なくタメを作らない編集。重低音のドラムロールみたいな音楽。対戦カードが出るとこもやけに不穏。

親から継いだ必殺技アイアンクローとは、家族を締め付けて人生に重く深く食い込み蝕む呪縛だ。それを信じることから悲劇が始まる。但し、レスラーとして弟たちほど期待されなかった次男ケビンは、選ばれない者として選ばれし者だった。重いバーベルを持ち上げたその太い腕が、やがてチャンピオンベルトでなく弟の身体を抱え上げることになる。

当時をよく知るプロレスファンによれば、必ずしも実話通りではないらしい。けど、ケビンの視点で再構築したことで、傷ましすぎる悲劇を解放と救済の物語として語り直してあったと思う。なにしろ、まさかあんな大きなカタルシスがあるとは…むしろ、そこへ辿り着くまでの受難劇だった。

リック・フレアーが登場する場面がすごく良いんだけど、なによりザック・エフロンのイノセントな白ブリーフ、パンパンに張り詰めた身体の重量感がずっしり効いている。受けてこそプロレスだし、切実に痛みの伝わる「受け」をしてみせたザックに今年のプロレス大賞を!

『コット、はじまりの夏』も何とか間に合って観てきた。ふわっとした邦題より『The Quiet Girl』でいい。これは(これも)抑圧と抵抗の物語。自分も小2まで教室で喋れない子どもだったのを思い出す。思えば、何に抑圧されてたんだろう。

殺伐とした実家から親戚の家に預けられたコットが、そこで居場所を見つけてゆくひと夏の物語。アイルランドのデッドパン版「赤毛のアン」と言えなくもないが、頻繁に出てくる水のモチーフはどこかファンタジック。いわばコットは秘密の湧き水で洗礼、ショーンの置いたビスケット(Kimberley biscuitって定番お菓子だそう)で聖体の秘跡を受けて生まれ直すかのよう。

またコットら登場人物はアイルランド・ゲール語、教科書やTVは英語。時は80年代、そこにも抑圧と抵抗の構図が。緑、そして白とみかん色のワンピースはアイルランド国旗を思わせるし、「牛の乳は牛が飲むべき」という言葉はアイルランドそのものではないかとすら。尚更あのラストに震える…すげえ映画だった。

他には、実は観たことなかった『不思議惑星キン・ザ・ザ』(クー!)、昔観たのを忘れてたオリジナル版『ウィッカーマン』、ニール・ジョーダンの『モナリザ』、ピーター・ジャクソンの『さまよう魂たち』、リメイクに備えて大林宣彦版『異人たちの夏』、家父長制の恐ろしさが詰まった『華岡青洲の妻』などを。旧作映画は今観ると時代のギャップを感じつつ、それなりに新鮮な味わいもあって、悪くない。

やっぱ、映画は待ってくれるかも。

@spnminaco
後ろ向き日記