勉強会で ”親の呪縛” についての話があった。親の「頑張って」という応援を、過度なプレッシャーに感じる子供がいる。そういう話だった。思い当たる少年が2人いた。
優れた才能を持っていた少年が、急に元気がなくなっていった。色々探ってみると、どうやら母親にいつもダメ出しをされているらしい。「なんでもっとできないの」「あの子は上手く出来てたよ」 。練習帰りの車の中で、毎回そんなことを言われている。「そういうことはやめた方がいいですよ」。そう伝える度にお母さんは納得される。それでも結局ダメ出しは続けられた。
その後、チームを離れた僕の耳に「彼が辞めた」という風の便りが届いた。それは別のチームに移ったということではなく、文字通りサッカーを『辞めた』ということだった。コーチというのは時に無力だ。自分の力の無さを痛感した出来事だった。
それから数年後、同じように眩しいほどの素晴らしい才能に出会った。そんな彼が、ある時期から急にイライラしだした。プレーが荒っぽくなり、友達とケンカをすることが多くなった。探ってみると、「もっと練習しなさい」と母親からプレッシャーをかけられてるようだった。
「そういうことはやめた方がいいですよ」。そんなことを伝えても、どこか暖簾に腕押し。お母さんにはなかなか届かない。コーチというのは母親に対してあまりにも無力だなと感じていると、ある言葉が降ってきたのでそれを伝えた。「彼はサッカーに関しては天才です。何も心配はいりません」。お母さんの表情が僅かに変化した。上手く伝わったのかはわからないけど、それから少年は元の素晴らしい輝きを取り戻していった。
富士山は遠くから見た時、より美しく見える。近くで見ると、赤茶けた土にゴロゴロと転がる岩、それほど美しくは感じない。お母さんは役割上、どうしても子どもとの距離が近くなりがちになる。だから、子供の素晴らしい才能が見えなくなってしまう。
子どもの素晴らしさは、時に少し離れて見ないとわからない。遠見の富士のように、子どもの活躍は遠くから眺めるに限る。離れて見ると、そのあまりにも素晴らしさにきっと息をのむ。