世界のために

すぽらら
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夜の勉強会が終わると、そのままいつもの居酒屋に場所を移して延長戦となる。ある時そこで、友人が先生に悩みを打ち明けたことがあった。

テーマは自分自身の『生きづらさ』について。彼はトップアスリートで、研究熱心で、頭の回転も速く、その上とても優しい。彼のことを悪くいう人はまずいない。そんな彼が思い悩んでいるのだから、世界中の人もきっと何かに悩んでいるのだろう。僕は他人事ながらにそんなことを考えていた。

先生は焼酎の梅干し割りを片手に、長々と続く彼の話をニコニコと聞いていた。そして時折何か言ってはガハハと笑い、つられて彼も笑顔になった。その夜はそんな光景がしばらく続いたけど、僕も程々にお酒が回っていて、結局先生が彼にどんなことを言ったのかほとんど思い出せない。

ただ、唯一覚えていることがある。それは先生が彼の肩に手を置いて、「堂々としていなさい」と言ったことだった。

「右に行こうが左に行こうが、前に進もうが後ろに戻ろうが、堂々としていればいいんですよ。何があっても何もなくても堂々していること。成功しようが失敗しようが堂々としていなさい。それが世界中の人のためになるのだから。」

先生は語気を強めてそう言うと、またガハハと笑った。

@spolala
スポーツの上達を探る人。頭の中の整理整頓。