研究室の先輩が僕のころにやってきて、机の上にポンっと砂時計を置いた。「メデューサって知ってる?」
ギリシャ神話にメデューサという女性の怪物が出てくる。その美しい瞳を見た者は、石にされてしまうという。メデューサは神話の中では退治されたけど、今でも遠く彼方からこの地球を見つめている。僕らの身体が年齢と共に硬くなっていくのは、メデューサが遠くから見つめているからなんだ。生まれた時はお餅みたいにグニャグニャなのに、あちらに旅立つ時は石のように硬くなる。僕らはメデューサの瞳からは逃れられない。でも実は、身体に流れる時間を戻してあげることはできる。そうすれば、身体は柔らかく甦っていく。
そう言って、彼は砂時計を逆さまにした。どこまでが本当の話かわからないけど、僕は彼の実験の被験者としてしばらくの間『逆立ち』をすることになった。