忘れられない名文の話

たぬきA
·

長いこと、人生の8割は本を読んで生きてきたが、ずっと心に残る一節みたいなものがほぼない。

よく、「ずっと【任意の年頃】の頃に読んだ【任意の書名】の【任意のシーンとセリフ】が心にあって、それが今の私に繋がってます」的なイイハナシを語る奴。ああいうのがほぼほぼない。読み方が浅いからだ?うるせぇ、すぐ忘れた方が、また読んだ時に面白いだろうが。

それでもまあ、僅かながらになんとなく忘れ難いセリフというのもあるにはある。

火村英生の「人間、生きてる限り『お疲れ』で『ご苦労』なんだよ」と、有頂天家族第二部の地の文の「天下一可愛いと言っても過言ではない」と、夜は短し歩けよ乙女の「地に足をつけずに生きることだ。それなら飛べる」だ。

火村先生のご金言は、年食うごとに、ほんっっっっっっとにそれな!!!となる。生きてると、お疲れでご苦労じゃない瞬間がない。皆無。やってられるか、俺は部屋に戻るぜ!!

有頂天家族の「天下一可愛い」は、前後の文脈がすごいのだ。できれば読んでいただきたいのだが、こいつ、森見男子で一番甲斐性あるぞ……。流れるような自然さでほぼほぼ破談にしてた許婚を復活させたぞ……。幸せにしろよ……。

最後は、自称天狗の怪しい男、樋口清太郎による樋口式飛行術の極意である。高みに行けるとかじゃなく、物理的に飛ぶ。原理が分からない。しかし、樋口師匠は飛ぶのである。あの世界、李白翁がいるから、本当に天狗のいる世界線なはずなんだよな。師匠は本当にどれくらい天狗なの?教えて赤玉先生!!

とにかく、イイハナシを捻り出すのは到底無理な言葉たちである。別に構わない。人生に影響が欲しくて読んでるわけじゃないんだから。楽しくて読んでるのだから。

@ssazu3210
このアカウントはフィクションです。実在の人物・事象とは関係ないと思います。