ダムの底の話

たぬきA
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この話はどこかで聞いたことがあるような気がしてくる怖いかもしれない作り話だ。

とあるダムが干上がった。雨量が足りなかったならばさもあらんことだが、その年のその地方の雨量は、平年よりも多いくらいであった。

ダムの底に村がそのまま沈んでいるのはよくある話だが、そのダムの底から出てきたものは村ではなかった。村が出てくるはずだったのだ。しかし、下がった水面から顔を覗かせたのは、仏像であった。つるりとした銅製と思しき顔には錆も藻も見当たらない。丁寧に手入れされたような顔をしていた。

しかし、沈んだはずの村の家々はどこに?あの仏像はどこから?答えられる者は誰もいなかった。

仏像の肩の辺りまで露出した時に、声をあげる者がいた。とある大学の史学科の教授である。

「あの仏像の様式は、現存するどの仏像とも一致しません。文献にもない。あれは過去に全く類を見ないものだ」

世論は荒れた。世紀の発見だと叫ぶ者、どこぞの宗教団体の不法投棄を疑う者、果ては宇宙船の擬態した姿だと言い出す者までいた。

本格的な調査隊が派遣されようかとなった矢先、ダムの水位が上がった。仏像が現れてから一度も雨は降っていなかった。

完全に水位が戻った後に、ソナーによる調査が行われた。そこには大仏の影はなく、打ち捨てられた村落の家々の影が見て取れるだけであったそうだ。

@ssazu3210
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