彼女の才能

sss365
·

今年からハマっているアプリゲームに夢中になっていると、唐突に見覚えのあるアイコンとともにラインの通知が1件届いた。

何年ぶりだろうか?見栄から湧いたであろう「数分は未読のままにしておきたい」という気持ちを押し込めて、私はすぐにゲーム画面を閉じて、ラインを立ち上げた。

ラインをくれた彼女はかつての仕事相手でありながら、同時に私は彼女の生み出す創作物のファンだった。いち会社員としてスカウトし、口説き、これから世に出る素晴らしい創作物を一緒に作ろうと約束をし、準備を進めていた。しかし、なんの前触れも(実際にはあったのかもしれないが)なく、「体調が悪い」と音信不通になってしまった人だった。彼女の涙声を今でも覚えている。

なぜ突然仕事が頓挫してしまったのか理由を考えることはあれど、本人に聞くことはできなかった。時々思い出したように彼女のSNSアカウントを眺めては、自問自答していた。SNSアカウントはやがて消えた。それから数年、私は会社を辞めた。彼女に退職の連絡はできなかったが、個人名義で活動していたウェブサービスのアカウントに、数日前にログインしていた形跡を見つけた。画面から見た彼女の創作物は、変わることなく輝いていた。

彼女からの久しぶりのメッセージは「まだ活動ができる状況ではないが、近況報告も兼ねて」という内容だった。

音信不通になった理由は結局わからなかったし聞かなかったが、彼女は元気そうだった。彼女もまた転職をして、かつて好きだったことに情熱を燃やしていた。そして、私が大好きだった創作物を新しく仕上げ、見てほしいのだと画像を送ってきた。

洗練されながら生命力にあふれ、生きるエネルギーに満ち満ちている。彼女が作るそれを見ると、必ず気持ちが上を向く。

どうしてもこの才能を世に出したい。見せつけたい。何千何万という人が、彼女の創作物で人生の一部を変化させるだろう。そんな気持ちは一旦心の底の底の端っこに無理やりしまい込む。どうしても嫌だというのならやらないけれど、何年、何十年かかっても、私は彼女と彼女の創作物をこの世界に見せつけたいのだ。私が見せつけたいのだ。わがままだろうか。