「誰もが、うつは持っている」
サカナクションの山口さんは、そう語っていた。
誰かに合わせて、社会に適応できるようにカラを被って。
毎日少しずつ無理をしながら、ぼくらは生きている。
その「無理」は、やりたくない訳ではなくて、自分の創りたいものをつくるための、居たい場所にいるためのものだ。
自分が背負いたい荷物を背負うためのものだ。
けれど、それは少しずつ人を消耗させていく。
あれだけツラくて苦しそうでも、山口さんが帰って来られたのは(ぼくが戻って来られたのも)比較的運がいいケースで。
それでも「元の自分」に戻れるわけじゃない。
インタビュー中の山口さんは、よく笑っていた。
その笑い方には覚えがあった。
「笑いの中」には何も入ってなくて、ただ「その場に居る自分を保つため」に必要な笑い。
「インタビューを受けられるのだから、SNSに投稿ができるのだから山口さんの症状なんて大したことはない」
そう感じる人もいたかもしれない。
けれど、あれは本当に苦しいなかで「わたし」を振り絞ってあそこに居てくれたんだと、ぼくは感じる。
自分で自分を肯定してきたモノを手放してしまって。
自分の存在を証明してくれるモノがなにもなくなって。
そこにあった孤独感、喪失感、絶望感は、どれだけのものだっただろう。
高校時代のバンド仲間が「サカナクションの山口さん」ではなく「何かを生み出す山口さん」ではなく、其処に居る・かつて確かに居た山口さんを、言葉だけじゃなく態度や行動で認めてくれたのは、どれだけ救いだっただろう。
それでも「サカナクションの山口さん」であることを誇り、そこに戻っていく。
うつ病を抱えたながら音楽をつくることに、自身の使命を抱えて。
それが本当に良いことなのかは分からない。
けれど、無理をしながらつくってきた自分も、環境も。
それもまた「本当のこと」で。
一緒に立って、闘ってくれる人はそこにも居る。
この番組に映っている部分は、「うつ」のほんの一部で。
それも、かなりキレイにハッピーエンドに締めているけれど、番組と違って「復活」で物語は終わらない。
きっとこれからもずっと苦しさは続いていく。
それでも、スゴく「心の病」に真摯に強く向き合ってくれる番組だったと思う。
どうかサカナクションツアー"turn"、完走できますように。。