入れ子構造のミステリだとか、ダブルミーニングのジョークだとか、情報量の多いラーメンなんてものでもいい。人間はなぜ複雑なものに触れると嬉しくなるのだろう。「全然嬉しくないよ!」と思われる方だって、きっと延々と単純なじゃんけんをするよりは戦略・戦術性の高いゲームや娯楽に興じることのほうが楽しいはずだ。有形無形を問わず、複雑なものには人を惹き付ける魅力がある。
反面、人間はなぜシンプルなものに触れても嬉しくなるのだろうか? シンプルなデザイン、何らかに特化した機能、訴えたいただひとつの言葉。シンプルなものにも確実に人を惹き付ける魅力はあって、何ならそれは複雑なものに触れること以上に快楽を伴っていたりする。
そもそも世界は複雑だし、人間も複雑だし、一人称から三人称まですべてが複雑なのだ。思うに、複雑なものに触れるのは実存を再確認する行為であってある種の安心感を得ているのかもしれないし、シンプルなものにまつわる嬉しさの正体は、そんな複雑な世界から半歩ほど抜け出た脱力感なのかもしれない。そう考えると、複雑なものに触れて喜ぶのはシンプルな結論に至るための助走なのかなと。