作品の一番の見所、読み所。音楽で例えるとサビの部分だろうか。往々にしてセールスポイントにされがちな部分。
いま遅まきながら佐藤究の『テスカトリポカ』を読んでいるのだが、帯にもある通り、これは暴力を媒介とした古代文明と「暗黒の資本主義」の邂逅が売りの作品で間違いないのだろう。ネットの評論筋でもそうした話を多数見かけた。でも、個人的に響いたのは福祉や教育や善性が敗北した世界を徹底して描き切っているという部分で、当然のことなのだけど人によって見所や売りの部分は違うのだなと。
だが、一番魅力的とされる部分にその作品のすべてを集約して考えるのは危ない。暴力描写がえぐいと評される作品に暴力描写だけを求めて読むのは、言い方は汚いが美味しい部分だけをつまみ食いしているようにも思えるし、作品に対する敬意を欠くというものだろう。暴力描写に至るまでを計算ずくで作られた作品自体を十二分に楽しめているとも思えない。まるでそれはSNSの美男美女アイコンを本人だと信じて人間性・趣味嗜好までが担保されている、と無邪気に思い込むような危うさと通底するものを感じてしまう。